夜のピクニック 恩田陸

「新作にして、すでに名作。
永遠に読み続けられる青春小説になるだろう」
朝日新聞の書評欄で、池上冬樹氏に絶賛されていました。
本屋大賞をとるまでは、帯にこの文章が使われていましたね。

私が読んだ頃は、まだ出版したばかりで、
何の賞もとっていない時期でした。
当時、ネットで感想を読んでいると
「特にどうってことない話」と書いてある文章をいくつか読みました。
「博士が愛した数式」についても同じような文章を読んで、
なんか腹がたってしまいました。
「どうってことない」物語の対極に位置するのは、
殺人事件が起きたり、何かに巻き込まれたりして、
人生が突然変わってしまうようなドラマチックな話を指すのかな。
この本は、そういった類のドラマチックな事とは無縁です。

さりげない会話から、仕草から、何かを感じ取ることによって、
頑なに構築されていた心がほどけ、再構築されていく。
それが、その後の人生をどんな風に変えてしまうか想像する。
物語からそれを受け止めることが出来れば、
どんなにドラマチックな事か理解できると思うのですが。
「夜のピクニック」は、そういったことを
静かに読者に伝えている作品です。

私がブログに感想を綴ろうと思い立ったきっかけは、
自分の感じたことを書く場所がなければ、
自分とは違う意見に対抗できないと思ったからです。
ネット上の多数決に負けてしまうような気がしたので。
当時と違って、今では圧倒的に絶賛の嵐なので、
今更こんな事を書くまでもないのですが・・・

高校生達にリアリティーを感じない
というコメントもよく見ますが、
物語に自分の経験を基にしたリアリティーを求めても
ムリじゃないかと思います。
高校生であったことは、ほとんどの人にとっては共通体験ですが、
その生活の中身は千差万別ですから。
学校を題材にすると必ず出てくる反応ですよね。

「みんなで夜歩く。
たったそれだけのことが、どうしてあんなに特別のことなんだろう」
たったそれだけのことを、ここまでの作品にした
恩田陸の力量が素晴らしい。
当初、この作品にも、ミステリーやホラーの要素を
入れようと思ったらしいですね。
「書いていくうちに、いや、そういう要素はいらない、
この行事だけで間が持てる、という確信が湧いてきて、
こういうシンプルな小説になりました。」

サービス精神が旺盛すぎる彼女が、
そういった要素を入れずにこの物語を書いた。
それこそが奇跡のような気がします。

夜のピクニック

• 作者: 恩田 陸
• 出版社/メーカー: 新潮社
• 発売日: 2004/07/31
• メディア: 単行本

タグ：恩田陸

コメント 12

　はじめまして。私は「夜のピクニック」で初めて恩田陸さんの小説を読ませて頂きました。
　感想を言うとすれば、読み終わった後に清々しい気分になれる、いい小説だと思います。

　「どうってことない物語」というのは言い方がよろしくないですが、miyucoさんのおっしゃる通り、私はこの物語が、「学校の特別な行事」を通して、少年や少女の微妙な心の変化や友情を描いた作品だと思っておりますので、「どうってことない物語」を面白くないと思う人には面白くない作品なのでしょうね。

　しかし、これだけ評判の良い作品ですから、実際、面白いと思った人の方がはるかに多かったのではないでしょうか。まあ、多数決ではないですから、なんとも言えませんが・・・。

　近日中に私も感想文を書きますのでmiyucoさんも、よろしければ見に来てください。
by 旅人 (2005-08-28 02:15) 

室伏鏡介さん、こんにちは。
「夜のピクニック」は、出版したばかりの頃は地味な扱いで、感想も今のような流れとは違いました。徐々に徐々に評価を高めていったように思います。今はご存じの通り讃辞の方が多いので、そんなに前の事を書いてもしかたないのですが・・・少し、思うところがありまして☆
感想、楽しみにしていますね。コメント、ありがとうございました。
by miyuco (2005-08-28 09:30) 

はじめまして。
最近、友達に薦められて『夜のピクニック』を手に取りました。
夜中から一気に読み切ってしまい、読後のすがすがしさに感動し、
思わず、『光の帝国　常野物語』と『ネバーランド』も購入してしまいました。
恩田ファンになってしまいそうです。

「高校生達にリアリティーを感じないというコメント」についてですが、
実は、私は恩田さんと同じ高校出身で、あんな生徒ばっかりでした（笑）。
とても個性的な人が多いので、「リアリティーが無い！」って感じる人も
多いかな～と客観的には思います。
普通、女の子とデートして、天文学の話する高校生なんていないですもんね。

まあ、それは置いておいて、素敵な作品に出会えたことが幸せです。
by YSK (2005-09-24 02:20) 

YSKさん、はじめまして。
体を動かす行事っていいですよね。（中学校の運動会を見学してきたばかり）行事嫌いだった自分の過去を棚に上げて言ってみます。現実的に考えてみると、この歩行イベントはものすごく過酷ですよね。恩田さんと同じ高校だったという事でしたら、私たちとちょっと違う意味でこの物語を楽しめたのではないですか？ステキな作品でした。ホラーの要素が入らなくて本当によかった。
コメント＆nice! ありがとうございました。
by miyuco (2005-09-24 08:40) 

miyucoさん、こんばんは。
恩田ランドの新作は少し待っていれば図書館で借りられるのに、
何故か『夜ピク』だけ凄い数の予約が入ってるんです
（Ｔ区では未だ44人が待ち状態！）。

恩田さんの学園ものは、夏休み合宿、文化祭、歩行祭‥‥という風に、
学校の中の非日常的なイベントを好んで題材にしています。
「終わらない一瞬の夏」願望？

西脇融と甲田貴子の良く似た２人が実は異母きょうだいという設定は、
「少女漫画かTVドラマみたいじゃん」と作中キャラに
言わせているように、ベタ・ドロですね。
『空の色ににている』の蒼生人と浅葱を超えられない（笑）。

『蛇行する川のほとり』のヒロイン芳野の名前は内田善美作品からの
「引用」だと、「恩田陸インタヴュー」の中で語っています。
（http://media.excite.co.jp/book/interview/200309/index.html）
次は『ユージニア』を読もうかな？
by sknys (2006-07-30 21:44) 

＞ sknysさん、コメントありがとうございます。
最近、恩田陸お休み期間に入っている私です＾＾；
でもこのインタビューを読んだら
『蛇行する川のほとり』を読みたくなってしまった。
『ユージニア』おもしろいですよ。
内田善美の作品は全部持っていたのに嫁入り道具には
入れませんでした。彼女の作品には少し違和感がありました。
セリフで説明しすぎのように感じられて。
『空の色ににている』　『ぼくを探しに』を引っ張ってきて
あそこまで語らせる必要があるのかなと思ってしまう。
あの濃密な空気は誰にでも描けるものではない稀有な作品だとも
思いますが、息苦しさも感じます。
内田善美はたぶん大島弓子のように書きたかったのではないかと
当時、私は感じました。（綿の国星と草迷宮の重なるモチーフなど）
でも、できなかった。もしかすると、これが彼女が筆を折って、
再販を拒む理由のひとつではないかと勝手に想像しています。
今では本当に幻の本になってますね。絶賛の声ばかりだし。
再販に持っていけるだけの腕のある編集者はいないのかな。
…長くなってしまいました＾＾；
by miyuco (2006-07-31 13:59) 

『蛇行する川のほとり』を再読しました。
３冊の新書判が１冊に合本されて、美しい単行本に生まれ変わっています。
「終章」を含めた全４章を４人の少女の視点（１人称）で描く
女子高生ミステリィ。

夏休みの合宿‥‥演劇祭で上演される舞台背景を描く美術部の３人に、
従弟や友人を加えた男女６人が「過去の殺人事件」を解明する。
主要キャラが全員美少女・美少年という「少女マンガ」的世界で、
龍彦→月彦、紀世人→清人というネーミングの妙に「ひぐらしの森」への
オマージュを感じます。

トリックに現実性は乏しいし、「殺人の動機？」も不自然ですが、
作者の主眼は少女たちの儚さ‥‥〈夏の終わり〉を描くことにある。
恩田ランドの中でも傑作だと思います。

内田善美作品は「説明しても言葉足らず」というジレンマがありますよね。
もう１本彼女の記事（アーカイヴス）があるので、それまで
保留させて下さい。
by sknys (2006-08-06 14:26) 

＞ sknysさん
えっ？！わたし、またなんかふっかけた？
保留ってなんだろ…（不安）
＞主要キャラが全員美少女・美少年という「少女マンガ」的世界
これを聞いたら、読まずにはいられません☆
コメントありがとうございます。
by miyuco (2006-08-06 18:51) 

http://www.yorupic.com/
f(^_^)　えーっとmiyucoｻﾝには既知の話題な可能性大なんですが…
いろいろなモノに置き去りにされがちなスゥ。としては初耳だったので
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　とりあえずA^_^；)
by スゥ。 (2006-08-21 11:41) 

「ピクニックの準備」
http://streaming.yahoo.co.jp/p/t/00133/v00295/
無料のYahoo動画です。ｄ（・ヘ・）ｂエッヘン！
…知ってました？
西脇融も貴子もかわいい♡
by miyuco (2006-08-21 18:23) 

知りませんでしたぁ～(･_･;)　さっすが miyucoｻﾝ!
観ました、かあいかった(^.^)スゥ。は梨香のエピソードが好き。
嶋田久作のラップもイイ感じ♪でした。

もーぉ、miyucoおねェさまったら何でも御存知なのねーヽ(▽⌒)　
by スゥ。 (2006-08-22 10:20) 

梨香さん、かわいい♡
恋する乙女はクレイジーと紙一重。
ベンチのオバチャン、最後は４人に増えてましたね＾＾
高見と先生のやりとり、
高三の息子もあんな感じだと思ふ ε=（・ｏ・*）
by miyuco (2006-08-22 16:49)