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ユージニア 恩田陸 [読書]

あの夏、丸窓の屋敷で催された米寿の祝い。
運び込まれたジュースを飲み、17人が死んだ。
現場に残された謎の詩、「ユージニア」。
唯一生き残った、盲目の美少女。
街を悪夢で覆った、名家の大量毒殺事件。
数十年を経て、今明かされる、遺された者たちの思い。
果たして、街の人々は、真実を語っているのか? 
いったい誰が、なぜ無差別殺人を?
誰もが見落とした毒殺事件の「真実」が、時を経て、
様々な人の証言で暴かれてゆく。
             ユージニア特設サイトより

     

 読み始めるとなんか違和感。
フォントがヘン。
濁点の大きさが気になります。
文章が微妙にかしいでるし …
「壊れかかった不安定な本というコンセプトで造本されています」
という注意書きがサイトに載っていました。
装幀の写真も封じ込められているイメージのようです。  
恩田陸のインタビュー を読むと
グレーゾーンの話にしたかったとありました。
以下、ネタばれあります。
感想とはいえない内容の長文です。

     

グイグイと引き込まれるように読まされてしまう。
おもしろかった。
恩田陸の熟練の手管です。
事件は容疑者の自殺のため終結。
真相は明らかになりませんでした。
生き残った盲目の美少女緋紗子は何かを知っているのか。
真実ははっきりと現れてきません。まさにグレーゾーン。
当然、カタルシスは味わえません。
私は、いろいろと読み解いていくのが楽しかった。

「目が見えなくなってから、見えるようになったの」
そんなふうに言っていた美しく聡明で
気品にあふれていた緋紗子。
最後に彼女の口から事件について語られるシーンがあります。
ただし事件から30年以上経過したその時には、
彼女は視力を回復していました。
恩田陸は彼女に視力を与えて、
女神の座から引き吊り下ろしてしまった。
そのために緋紗子の告白は
“ただの人”に成り下がってしまった女の
あがきのようにも聞こえてしまう。
本人からの告白さえグレーゾーンです。

雑賀満喜子は小学生の頃この事件を間近に見ていました。
当時の関係者に話を聞き、
卒論がわりに書き上げた文章が出版され
「忘れられた祝祭」という本になる。
満喜子は緋紗子の正しい鑑賞者になりたかった。
すべてを知っていると思っていた。
「あたしはずっと誰かになろうとしてきた。
自分以外の誰か。
自分ではないものがいったいどんな気持ちでいるのか
知りたかった」
「けれど、結局は、自分が鑑賞者だったことを
思い知らされただけなのだ。」
白い百日紅。
緋紗子とその母親に何があったか誰も知ることができない。

事件直後、病院で繰り返しつぶやいた言葉。
本人も自分が何を喋っているかわかっていない。
「誰かと青い部屋の前にいる。白い百日紅の花が怖い。」
幼い頃、青い部屋で聞いた母の言葉が蘇ったのかもしれない。

「必ず誰かが見ている。
罪を犯したところを、誰かがきっと。」

様々な人の言葉に事件を別の方向に向かわせたかもしれない
「if」が出てきます。
それでも事件は起こってしまった。

「何かの拍子に、雪玉が坂を転がり落ち始めて、
どんどん雪だるまみたいに加速していく。」
「もちろん、雪玉の中心には、人為的なたくらみもあるし、
押し殺していた感情もあるでしょう。
けれど、何かのきっかけと偶然の連続が噛みあわさって、
人為的なものを凌駕して
恐ろしいことが起きてしまうということがあると思うの。
人間のちっぽけな思惑など嘲笑うかのように、
大きな厄災で返される。
あの事件もそういうものだったような気がして。」
満喜子は第一章「海より来たるもの」でこう語ります。

「一人になりたい」
彼に言ったこのひとことが雪玉の始点だったのでしょうか。

「ユージニア」はミステリーではなくホラーですね。

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ユージニア

ユージニア

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2005/02/03
  • メディア: 単行本

恩田陸はこの「ユージニア」で直木賞候補に挙がりました。
でもこの作品での受賞は考えられない。
やはり受賞しませんでした。
そして今回も「蒲公英草紙―常野物語」で候補になっています。

今、「光の帝国」を読んでいるところです。
これを読まないと「蒲公英草紙」が読めないよ~
追いつくのがたいへん。

 


タグ:恩田陸
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コメント 4

dekochan-kyou5momo

なんかおもしろそうですねえ。
恩田陸さんは、名前だけで食わず嫌いでした。
ちょっくら手にしてみようかなあ。
miyucoさんのコメントに魅かれました。

今年もよろしくお願いします。
by dekochan-kyou5momo (2006-01-09 22:01) 

miyuco

>deko先生
恩田陸はわたしも何となく敬遠していたのですが
読んでみると、サービス精神旺盛な物語の数々にハマってしまいました。
おもしろいですよ。高校の図書館にたくさん置いてありそうですね。
「蒲公英草紙」直木賞候補の影響か、図書館でタッチの差で借りられてしまいました。くやしいよ~
今年もよろしくお願いします。
パソコンはまだダメですか?更新、楽しみにしています♡
by miyuco (2006-01-10 08:59) 

sknys

・斜めに傾いだ組版‥‥杜撰な製本だなぁ〜と思って、奥付を
 確認しちゃいました^^;
・帝銀〜毒入りカレー事件を想わせる大量殺人
・吉田健一氏への言及があるようにK市とは「金沢」のこと
・『忘れられた祝祭』の著者・雑賀満喜子をインタヴューする
 「私」とは誰か‥‥自殺した順二の恋人?
・盲目の少女・青澤緋紗子と母の関係
・折り鶴刑事は〈館シリーズ〉の名探偵・鹿谷門実へのオマージュ?
・真犯人が最初から判っている「刑事コロンボ」な倒述法
・台風一過と黄色い雨合羽の青年
・瓶ビールを栓抜きで開ける時代
・古書店Mに火を放ったのは一体誰か?
・盲目の魔少女も、目が見えるようになったらのフツーのオバさん?
・龍彦の「ドラコニア」に倣って、2人だけの国を
 「ユージニア」と名付ける
・謎は謎のまま、苦いジュースの澱のように意識裡に溜まる
 オンダーランド‥‥次は『ネクロポリス』?
by sknys (2006-09-05 20:31) 

miyuco

>sknysさん
・盲目の魔少女も、目が見えるようになったらフツーのオバさん?
作者のこの意地悪さがいいなと思ってしまいました。
幻惑されるような感じがおもしろかった。
最近、恩田陸の新刊の話、聞きませんね。
一時は怒濤の出版ラッシュだったのに。
コメントありがとうございました♪
by miyuco (2006-09-06 13:10) 

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