SSブログ

「孤宿の人」 宮部みゆき [読書]

孤宿の人 上 孤宿の人 下

讃岐国、丸海藩――。この地に幕府の罪人・加賀殿が流されてきた。以来、加賀殿の所業をなぞるかのように毒死や怪異が頻発。そして、加賀殿幽閉屋敷に下女として住み込むことになった少女ほう。無垢な少女と、悪霊と恐れられた男の魂の触れ合いを描く渾身の長編大作。

     

「孤宿の人」私はあまり好きになれなかった。
時代小説が苦手だからかな。『日暮らし』『ぼんくら』くらいしか
読んだことがありません。
封建時代、理不尽な力に翻弄される人々の話を読むのは、つらいです。
“ほう”という名前の酷い由来に腹をたて、
幼い子がやっとたどり着いた安穏な生活を
次々に奪われることに腹をたてながら読んでいきました。
こんなに人が死んでいく物語はイヤなんですけれど。
丸海藩存続のための論理が何より最優先され、
そのためにないがしろにされる命。

宇佐は言います。
「もう誰も、秘密に苦しみ、苦しめられることのない世の中にしよう。
秘密のなかで、人の命が失われることのない世の中に。」

「偉い役人や金持ちの町人より、名もなく毎日懸命に働いてお足を稼ぐ庶民の方が、一番正しく、温かい。これまで私はそう書いてきました。今回のように、善良な庶民がどんどん死んだり、不幸になったりする話を書いたことはなかったのです。でも、封建制度の江戸時代には、どんなに心の温かい庶民も権力に対しては無力であり、割を食ったり、犠牲にならなければならないことが多かった。そこを一度、しっかり書きたいと思い続けていました」…「毎日新聞」のインタビューより

そんな時代でも美しいものはある。
幕府の中枢にいて政事の世界で全てを失った加賀殿。
悪霊ではなく生身の人間として“ほう”に接し、“ほう”をひとりの幼子として扱う。
彼が“ほう”に授けたもの。「この世の大切なもの、尊いものを表す言葉だ。
この字ひとつのなかに、そのすべてが込められている」
「それは、おまえの命が宝だということだ。」
これから先、“ほう”の心を生涯明るく照らし続ける光が、
加賀さまからの贈り物です。
そしてそれは“ほう”の思いがけない忠義心への返礼でもあります。
「あの子は御仏に会うた。人の身の内におわす御仏に」
「我らには見えぬ御仏でありまする。なれど、あの子は会うた。」

宮部みゆきはうまいです。ラストには泣けてしまいました。
丸海藩にとって最上の形をとる収め方も見事です。
加賀殿の身の処し方の潔さ。
悪霊という風説を逆手にとったきれいな終わり方。
落雷のインパクトと、その後の静寂。

それでも、私はこの物語をあまり好きにはなれません。
たんたんと進む物語に感情移入できなかった。
史実に足をとられてしまっているのでしょうか。
宮部みゆきのファンを名乗ることに躊躇がある人間の意見ですが。
なにしろ『模倣犯』『理由』『蒲生邸事件』を好きになれないので 

     

宮部さんの作品を読み始めたのは『火車』が出版された頃からです。
「おかあさんは、いつも『みゆき』っていうひとの本をよんでるね」
と小さかった息子に言われていました。(彼はまだひらがなしか読めなかった)
当時読んだ『火車』はすごかった。
けれども、いまの時代に初めて手に取った方は、
あのすごさを感じることができるのか、少し疑問です。
社会的背景の変化がありますから。

ウチのオットは宮部さんの本を2年前くらいまで、一冊も読んでいませんでした。
たまたまブックオフで100円の『火車』を見つけて、
ためしに読んでみればと渡したところ、あっという間にファンになってしまいました。
その後、怒濤のように既刊本を読んでいるのを見て、うらやましかった。
あまりに楽しそうだったので。
そして、宮部みゆきってすごいなとつくづく実感しました。
彼は『模倣犯』を定価で買うべきか思案中です(^^;)
(わたしは図書館で借りて読んじゃいました。)


タグ:宮部みゆき
nice!(1)  コメント(4)  トラックバック(1) 

nice! 1

コメント 4

けろろ軍曹

トキオ君にキリ番て云われちゃいました(=´∇`=)
きのう風邪で寝ついたのをよいことに『mpmc』の過去logを漁りハツカネズミのようにくるくるカウンター廻した甲斐があったのでしょうか?でも全部は読み切れませんでしたが…(*_*)
ところで過去のmiyucoサンのコメントに“ファンサイトではキャラクターの名をHNにしてはならない”とありましたが【けろろ軍曹】ダメでしょうか?
カタカナじゃないから大丈夫?『ケロロ軍曹』サイトでさえなければ平気?

ネット界新参者故しくじりもあり、先日も『蟲師』の掲示板で録り損なった結末を尋ねちゃったのです。幸いそこは原作ファンがほとんどで映像化や演出がどのようになされるか楽しみにしておいでの方が多く3人から粗筋を教えて頂いたのですが、そのようなネタバレ行為は揉め事の火種になると他のトピックスをROMして知り(゚Д゚;)青くなりました。

もしダメそうでしたら教えて下さい。なんならmiyucoサン新しい名前の命名者になって下さいな。
by けろろ軍曹 (2006-01-25 19:01) 

miyuco

>けろろ軍曹さん
風邪はいかがですか?わたしの過去ログ読むなんて…
もっと具合悪くなっちゃいますよ゚・。.(><*).。・゚ 
え~と、キャラクター名のHNは、荒らし行為をする人が暴れる場合によく使われるので、警戒される雰囲気があります。
できれば避けたほうがいいかもしれないです。
ウチのような辺境のブログでは別に構わないのですが気にする方は
やっぱりいらっしゃると思いますよ。
この辺のことは中学生の時にHPを持っていた長男に教わりました。中学生の集まるサイトでは初心者の揉め事が多いみたいで彼は結構苦労してたみたいです。

HNの命名なんて畏れ多いこと、私にはムリでございます(T_T)
by miyuco (2006-01-26 14:18) 

KANAchanMaMa

「ブレイブ ストーリー」のページに伺ったのですが、ここに気付いて 素通りでき
なく なりました~。^^; 今頃 何ですが、ちょっと一言。(^^ゞ
残忍な描写に 嫌悪感を感じられるのですね。きっと…。「模倣犯」なんて、
殺し方の描写が すざまじかったですもの ね。でも、“きれいごと”では ない
表現に、私は かえって惹かれております。グリム童話の原作が、実は どんなに
残酷だったか!…が 話題に上ったことが ありましたが、人の所業というものは、
本来 残忍に なりがちで、 “きれいごと”には なかなか いかない…という真実を、
見据えることは、人の優しさを 見つける前段階として 必要ではないか !?…と
思ったりしています。
私が 宮部作品に最初に出会ったのも 『火車』なんですよ!(^^♪
もしかして、宮部作品との出会いの時期が、同時期かも しれませんネ。
年齢的に 鑑みて!(~_~;)ゞ
by KANAchanMaMa (2006-07-10 04:58) 

miyuco

>KANAchanMaMaさん
封建時代の理不尽さに腹が立ったという事がまずあります。
(作品としての評価としてではなく^^;)
宮部さんの作品には悪意のかたまりみたいな人間が出てきますね。
関わった人間は翻弄されてしまいます。
その翻弄される側の人間の葛藤やら人間性を描き出している
物語だという事はわかるのですが、「悪い人間」がただの小道具としてしか出てこないのがあまり好きではありません。
アイテムとしか扱われていないというか。
勧善懲悪でなくてはいけないと思っているわけでもないです。
この作品は時代背景や人物を丁寧に描いていると言えるのでしょうけれど
冗長だなとも感じました。
宮部さんはもっとタイトに語れる方だと思うのですが…
長い連載を期待される売れっ子ゆえに長編になってしまうのですかね。
(宮部さんの描写はそんなに残忍だとは思わないですよ)
nice!とコメントありがとうございます♪
by miyuco (2006-07-11 16:26) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1