SSブログ

『ブロークバック・マウンテン』 [外国映画]

アカデミー賞関連の話題で耳にすることが多かったこの映画。
高い評価を得ているので興味を持ちました。

う~ん、私にはそれほど深く響かなかったな。
(それなのに、書いていくうちに
実は響いていたのかなと思ってしまう不思議な感覚)
淡々と進んでいく物語。
センセーショナル(と言われている)な題材ゆえ
意図したものなのでしょうか。

オープニングのギターの音色が美しい。
山を登っていく羊、羊、羊!羊がかわいい

報われない恋人たち。
生涯を賭けて愛する相手と出会ってしまい
至福の時を手に入れ、
同時に茨の道を歩むことを余儀なくされた二人の物語。
彼らにとっていつまでも輝き続ける記憶、
ブロークバック・マウンテンの日々が
もっともっと魅力的に描かれていたらよかったのに。
居場所がなかったというイニスを受け止める場所。

二人が最後に別れるシーン、
フラッシュバックで蘇るジャックの幸福な記憶。
イニスがジャックの背後から近づき、そっと彼を抱き寄せ、
亡き母から子供の頃に聞いた言葉をジャックにつぶやく。
この幸福な記憶をこの場面で脳裏に浮かべる
ジャックの表情がせつないです。
(彼はこの20年間で何回このシーンを思い返したんだろう)
これが前半に出てきてくれたら、
二人の関係がよりしっくりと伝わってきたのに。

ジャックとイニスが再会するまで、
ふたりの気持ちには温度差があるのかと思っていた。
恋愛感情と誘われる形で衝動に突き動かされたもの
(ある種、気の迷い)
そうではなかったんですね。
再会シーンの激しさでわかりました。

イニスはジャックが死んで、心の平穏を取り戻したようです。
ジャックがああいった形で殺害されたのは
予定調和のように思える。
目立たないように関係を続けた事が間違ってなかったんだと
ジャックの死を彼に応えられなかった自分への
免罪符のようにとらえて安堵している部分が、
イニスにはあるのではないでしょうか。
精神的な繋がりだけになったときに、はじめて何も迷わずに
自分の気持ちを受け入れることができた。
イニスを縛る鎖は強固でした。
もうリスクはないです。彼はこの世にいないから。
「Jack, I swear... 」

イニスはなぜ、もう二度と会えなくなってしまったと
ジャックの死を嘆き悲しんだり
彼のむごたらしい死に様に激しく怒ったりしないのですか。

ジャックのほうは自分の気持ちにストレートです。
イニスの離婚成立の知らせにウキウキして会いに行き、
期待はずれの対応に落胆し、
泣きながら帰っていく彼はかわいい。
金銭的な不自由はしていないし、
楽天的なところがありますね。
最後は路上で死を迎えてしまったけれど、
不幸ではなかったように思える。

ひっそりとジャックのシャツの下に重ねられていたイニスのシャツ。
長い長い間、そこにそっと隠すように置かれていたんですね。
持ち帰ろうとするイニスにサッと袋を差し出すジャックの母親。
彼女に温かいものを感じて、
イニスと違ってジャックには居場所があったんだなと思いました。
ラスト、イニスのクローゼットには
イニスのシャツの下にジャックのシャツがありました。
イニスのシャツがジャックを包み込むように。

きっとこの二人の立場だったら抱えていると思う
ヒリヒリするような感じが
私にはあまり伝わってこなかった。
異分子としてとことん排除され
悲惨な末路を辿らざるを得ないほど彼らを追いつめる
それほどまでに凄惨な差別意識を見たいわけじゃないけれど。


<確かに、これは「愛」という言葉を口にできなかった者たちの物語である。
しかし同時に、その「愛」の記憶だけで生きていける者と、
それだけでは生きていけない者との「別れ」の物語でもあるのだ。>
朝日新聞に載っていた沢木耕太郎の文章です。

『He was a friend of mine 』
エンディングロールで流れるこの曲に心を揺さぶられます。
“He died on the road”

 

吉田秋生『カリフォルニア物語』のイーヴの死を思い起こしました。
不意打ちの死に、山手線に乗っていたのに泣きました。
イーヴを失った後のヒースの荒れ狂う心が今でも私の中に残っていて
穏やかに生きていくイニスに違和感を感じてしまったのかもしれません。


nice!(1)  コメント(6)  トラックバック(5) 
共通テーマ:映画

nice! 1

コメント 6

びあんこ

miyucoさん、はじめまして。
ブロークバック・マウンテンにハマっている者です。
あとからじわじわくる映画だと皆さんおっしゃいますね。
イニスは人知れず嘆き悲しんだと思いますが、映画では静かなシーンしか出しません。
ジャックの死で安堵した部分は確かにあると思います。死者には欠点がないので愛しやすいし。

私はココログでもブログをやっております。「カリフォルニア物語」についてちょこっと書いた記事をTBさせていただきました、よろしくお願いします。
イーヴの死のとき、ヒースはそんなに荒れたのですか。
私はその回は読み逃したらしく、死に顔にキスしてるシーンしか分かりません。とても悲しかったですけど。

はじめてなのに長々と失礼しました。また覗かせていただきますね。
by びあんこ (2006-04-17 15:05) 

miyuco

びあんこさん、はじめまして。コメントありがとうございます。
イニスは無骨で寡黙なカウボーイだから、静かに悲しむ表現が
自然なのかもしれません。(ジャックはそれを理解していることでしょう)
それでも私は怒って欲しかった。ジャックのために。
こうなると映画の感想ではなくなってしまうのですが^^;
『カリフォルニア物語』手元になく読んだのもはるか昔なのですが
ヒースの感情は激しく、読むのがつらかったような気がします。
もう一度、読み返してみたい作品です。
by miyuco (2006-04-17 17:49) 

スゥ。

そんなわけで『バジル氏の優雅な生活』再読。
かつてコミックスで全巻持ってたのにチットモ記憶に残ってなくて
「ガッカリだよッ」(スケバン恐子as桜塚やっくん)…デジャヴ!?

(白泉社文庫版)5巻収録の『射撃大会』
リロイとジルは恋人同士だったと読みましたか?
相愛ではなかったかもしれませんがリロイのジルに対する想いは友情より愛情に近いのではないでしょうか。
少ない線で描かれる作者の画のように、彼らの関係もまた書き込まれることはありませんが、余白にこそ感じさせられるものが窺われます。

『ブロークバック・マウンテン』
もともと性的に寛容なアニミズムに連なる多神教文化が土壌にある国に生まれ24年組の洗礼を受けた私達に比べ、製作された合衆国の人々の評価が気になります。
『カリフォルニア物語』も発表されてから長いけれど翻訳されて合衆国で読まれたりはしていないのかしら? 
マンガもジャパニメーション=オタク文化としてばかり取り上げられるけど、'70年代少女漫画黄金期の作品群の海外評を聞きたいところです。
『ドラゴンボール』から入ったって、行き着く人はモーサマやユーミンまで行き着いちゃうと思うんですが。
デーヴ・スペクターやパトリック・ハーランは少女漫画読まないのかしら?
               どっかで発言してないかなあ?
by スゥ。 (2006-05-03 23:32) 

miyuco

>スゥ。さん
おっしゃる通りだと思います。
さりげないカットから伝わってきます。本当に上手ですね。

「人間が人間を愛すること、それ自体は美しいことだけど、その影で涙を流したり、自分の心を見ないようにしている者もいることを知るべきです。」
『ブロークバックマウンテン』雑誌に載ったおすぎのレビューが
「フツーに生きてるGAYの日常」というブログに紹介されていました。
http://akaboshi07.blog44.fc2.com/blog-entry-324.html
私はこの視点に関しては触れてなかったなと反省した次第であります。
映画では丁寧に描かれていました。
この作品がアカデミー賞をとれなかったのは、保守的な過激キリスト教団体
過激右派の圧力のせいだとか言われてましたね。
今の日本には801やボーイズラブの過激なジャンルがありますので
70年代少女漫画の雰囲気は伝わりにくいのではないかな。
あの時代に、しかも自分が10代の頃に読めたことは
幸福なことだったのではないかと思っています。
柔軟で自由な捉え方を教わったような気がしています。
by miyuco (2006-05-05 10:01) 

スゥ。

三島の『禁色』『仮面の告白』『豊饒の海・四部作』や森茉莉の著作、稲垣足穂『少年愛の美学』なぞは“教養”として(笑)読みましたが…

あとは801やボーイズラブという分野確立以前の、先駆者たる栗本薫くらい。
書店の一画を占める濃い背表紙の色には圧倒されますが、中島梓自身が述べているようにアレらは男の子の着ぐるみを着た女の子達のハーレクインロマンス(それもデザイア)であって、ナマすぎない為の仕掛けに他ならず、明らかに特殊なジャンルでしょう。
(“ナマすぎない”は精神的に、であって、描写は“ナマすぎ”ですが…)

事の善悪は措いて、その状況が許されるのも文化の下地あってこそ。
保守的な過激キリスト教団体過激右派の圧力…ダーウィンの進化論を否定したりしてるところでしょうか?
『ユダの福音書』が公開された今、原理主義者達はどう対処するのでしょう?
無視するのか?辻褄を合わせるのか?ある意味興味深く思っています。

年を経る毎に、若い頃蔑ろにしていた伝統や、その保守の大切さを感じるようになりましたが、それと頑なである事は違う事も知っています。
私も彼女らに“柔軟で自由な捉え方を教わった”のかもしれません。

ちょっと自由すぎるかもしれないヒトのBlog。過激です。

http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20051221#seemore
by スゥ。 (2006-05-05 14:13) 

miyuco

町山智浩氏のブログですね。ときどき読んでいます。
おもしろいですよね。
栗本薫さん、昔からちょっと苦手。最近は非常に苦手^^;
(関係ないけど、竹宮惠子さんも苦手)
ふところが深くない人間だとだんだんバレちゃいますね(*≧v≦) 
801やボーイズラブに関しては拒否反応はないです。
これは中島梓さんの言う通りだと思っています。
息子に801の意味知ってる?って聞かれて苦笑でした。
最初から知ってるってば。
(珍しいハハらしいです。でもフツー母親にそんなこと聞かないって)
by miyuco (2006-05-05 20:28) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 5