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『ヨハネがすき』 [大島弓子]

60ページの物語。1976年の作品。
ここから、大好きなセリフを抜き書きしていくと、
すごいことになってしまいます。

麗しいヨハネ。
弟の母親代わりになるときの女装姿も美しいです。
幼い弟たちもとてもかわいらしい。

先日、高三の長男が
「お母さん、泣いた赤鬼 ってなに?」と聞いてきた。
「涼宮ハルヒの憂鬱」を読んでいたら
「私だったら、赤鬼を恐がったりしないで、
最初から遊びにいくのに」
というようなセリフがあったらしいです。

「ドコマデモ キミノトモダチ アオオニ」
いつ読んでも泣けてしまうこの童話を思い出し
そして、「むく鳥の夢」が出てくる
「ヨハネがすき」を連想したわけです。

『ヨハネがすき』を書こうと思っていたのに、
なぜか『バナナブレッドのプディング』を
先に書いてしまいました。

ヨハネは突然の交通事故で両親を失う。
子供たちを引き取るという親戚の申し出を拒み、
幼い弟三人(ひとりは乳飲み子)と9歳の妹と暮らす。
彼の望みは自分を育ててくれた義父母のかわりとなり、
残された家族とともに今まで通り暮らすことだった

17歳のヨハネに彼らの面倒を見ることは至難の業。
学業をあきらめて退学し、
子供たちを育てることに専念することに。

ハイキングに出掛けた先で、妹の果林が
「ヨハネのそばにいると悪い子になるばかりです」
という置き手紙を残しておばさんの家へ行ってしまう。
動揺するヨハネを追いかけて松丸が交通事故に。
松丸を助けるために奔走し、
結果的に幼子ふたりを山の中に取り残してしまう。

親戚に責められ別れを決意するヨハネ。
自分を痛めつけるように
マラソン大会で無理をして、たおれます。
離ればなれになっても
弟たちはヨハネを慕って追いかけてくる。
それを見て、親戚もヨハネの再挑戦を認めることとなる。

この物語のなかに、「むく鳥の夢」という
浜田広介の童話の抜粋がでてきます。

さて、ある夜なかでありました。
むく鳥の子は、ふと、ぽっかりと目がさめました。
かすかな音がきこえました。かさこそ、かさこそ…
「おとうさん、おとうさん、おかあさんが、かえってきたよ」
「いやいや ちがう。風の音だよ」
それは、とうさん鳥のいったとおりに、
つめたい風が黄いろいかれ葉をふいているのでありました。
かさこそ…かさこそ…
かれ葉がなるのでありました。
けれども、それは、かあさん鳥の羽音のようにききとれました。
それから、何か、かあさん鳥がささやくようにも思われました。

むく鳥の子は、白い鳥が飛んできて、
ほらの中にはいってくる夢を見る。
「ああ、おかあさん」
あくる朝、むく鳥の子は、枯れ葉に
うすい雪がこなのようにかかっているのを見る。

弟たちと一緒に暮らすことを断念せざるを得なくなり、
自分のふがいなさを嘆くヨハネはこう言います。

「ムクドリの話の ぼくはいわば風や木の葉だ 
かさこそかさこそ音をたてても、
その葉に雪をふりつもらせても 
それはムクドリの心をいためつけるだけだったのか 
もしそうだとしたら
みんなへの決別のテープをきるまえに
木の葉などは落ちてしまえ!!
雪などとけてなくなってしまえ!!
心の臓よ止まってしまえ!!
みんなが大好きだったんだ!!」

このひろすけ童話は
以前に読んでいて知ってはいたのですが、
木の葉をこんなふうに思ったことはなかった。
思いもよらなかった。
ヨハネの心情を代弁するのに、
この話がつかわれたことにビックリして、
同時に感動しました。

ここに、この話をもってくるなんて

ヨハネは果林にクラスメイトのやすみとは
どんな関係かと聞かれ答える。
そして「ちょっとした羽を持ってるだろう?」と言います。

今はJ-popの歌詞で手垢にまみれてしまっている「羽」
この時期はとても新鮮でした。
「トーマの心臓」はすでに発表されていましたが。

「ヨハネがすき」のラストは
やすみがヨハネのもとに嫁ぐシーン
「どうか雪になりますように」
ハッピーエンド。

「あこがれていたのは いつの日もきみだよ やすべえ」

ヨハネのこの言葉には、
やすみでなくても胸をうたれます。

全て緑になる日まで

  • 作者: 大島 弓子
  • 出版社/メーカー: 白泉社
  • 発売日: 1996/12
  • メディア: 文庫

タグ:大島弓子
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コメント 2

スゥ。

大島作品読み返し週間でしょうか?
『ブレイブストーリー』の劇場公開が近くなり、私同様そこから検索してコチラを訪ねてくる人も増えるでしょう。
そんな人達がこの場所で、知らなかったユーミンの漫画にも興味を持ってくれたら嬉しく思います。
橋本治のように“発見”する子も出てくるんじゃないでしょうか。

(『カーニバルナイト』で獲ったネズミの数を自慢している猫の台詞を
「今月ゥ僕はァ評論をォ百枚もォ書きましたァ」と換えられて『ぱふ』に載せられていたのを思い出しました。
パロディでない本編、弓子先生本人のネームの
「女の感性、女の感性」「男にゃわからん」って突っ込みも笑いましたわ)
by スゥ。 (2006-06-14 00:45) 

miyuco

>スゥ。 さん
大島さんは好きな作品を選ぶのが難しいので、(というかムリなので)
いっそ選集の作品にそれぞれコメントを書いていこうかと思ったりもしましたが、
ものすごい長文になりそうなのでやめました^^;
今回は「泣いた赤おに」からの連想がとっかかりです。
最近『バナナブレッドのプディング』を分析している文章を見かけて
自分でも書いてみようかなと思った次第です。
教養として読む、分析する。
それもいいけれど、理解できるから優れてる
理解できないから優れていない、という作品ではないので
ムリして読まなくてもいいのに、と思ってしまいます。
『ぱふ』読んでました。笑えましたよね。

村上春樹作品の登場人物について
「境界性人格障害(ボーダー)の人間ばかり」と揶揄しているのを
どこかで読みましたが、それなら大島弓子だって同じじゃないですか。
…私が好むのはそういう方々の物語なのかと
いきなり気がついてしまいました…

『ブレイブ・ストーリー』なぜ検索上位にヒットするのか
大きな謎なんですよね゚・。.(><*).。・゚ 
by miyuco (2006-06-14 13:21) 

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