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『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』 [日本映画]

樹木希林がオカンを演じたからこそ
原作の持っているどこかユーモラスなところが映画にあらわれた。
自分の事はすべて後回しにして生きてきたオカン。
(15歳の息子と駅で別れるシーンと、
栗を食べながら体調が悪いと言う入院直前のシーン
着ているセーターが同じものだった。)
どうしてああも無条件に息子を信じることが出来るんだろう。
予告で流れる横断歩道を渡るシーン。
歩き出す前に住んでいた部屋を見上げるところがせつない。
病室でオトンと一緒にいるときの可愛いこと!
優しくされることに慣れてなくてぎこちないオカン。

息子から出来上がった自作の本を送られて
電話口でうれしそうに「この本読んで元気だすけん」
「ありがとうございました」
子供にありがとうございましたなんて言わなくていいのに。
こう言わずにはいられなかったオカンから伝わってきたものに泣けました。
とても印象に残りました。

オダギリジョーの声は優しい。
「もう、心配しなさんな」
表情が豊かなわけでもないし、
セリフもぶっきらぼうで一本調子に聞こえたりするのに
なぜか、いろいろな感情が伝わってくる。

淡々と物語はすすむ。
でも、どんなにあっさり語られても親が死ぬ場面に
心を動かされない人はいない。 もう、どうしようもないです。

絶賛の嵐に水を差したくないけれど、
原作を読んでいる人間としては少し思うところがあります。

お涙頂戴の物語にはしたくなかったのかな。
原作を読んでいると映画はもう少しウエットでも
よかったのにと思ってしまう。
逆の方向で原作にとらわれてしまっているみたい。
リリーさんがこんなふうに言い切るところがこの物語の魅力だったのに。

「母子家庭やったけん、子供の頃は、おまえマザコンやろうち
言われるのが好かんでからオカンの話を人にようせんかったんよ。」
「でも、なんで大切な人のことを想うていかんのやろうか?
なんで好きな人のことを話して、気持ち悪いとか言われんといけんのやろうか。
今でもようわからん。」

お母さんが好きで何が悪い!
リリーさんは強くこう言いたかった。そう言わずにはいられなかった。
映画ではここがいまひとつ胸に迫ってこなかった。

「ボクが子供の頃から一番恐れていたこと。
宇宙人の襲来よりも、地球最後の日よりも恐れていたこの日」
「悲しみの始まりと恐怖の終わり」

オカンがいなくなってしまうことを何よりも恐れていたのに
東京に呼び寄せたことで親孝行したつもりになって
母親の体調不良に気づいてあげられなかったやりきれなさ。
ここは淡々と描写しなくてもよかったのに。
オカンが死ぬことを受け入れられるはずがない。
もっともっと慟哭したはずです。

「東京に行って本当にいいのか」と問い返す母親。
息子のジャマはしたくないと断るのかと思っていたら
そうではなかった。母親の老いを感じてせつない場面だった。
映画はあっさりしすぎです。

東京に出る前の少年時代、オトンと一緒に過ごしているところのほうが
印象に残る。それよりもずっと多くの時間をオカンと過ごしていたはずなのに。
もし、小林薫と内田也哉子の力量の差でこういったバランスになったとしたら
内田也哉子をキャスティングしたのは間違いだったのでは。

オカンが死んでしまったあとの描写が淡々としていたのはよかった。
でも残していった箱の中身はもっと見せて欲しかったな。
レシピがありましたよね。きっとオカンらしい品揃えだったのでしょう。

息子の卒業証書を大切にしてました。勲章のように。
あの年代の親にとって、子供が大学を出たという事は
特別な意味を持ちます。自分たちは貧しい時代に生き、
大学を出たひとはエライと思っているところがあるから。

この映画に個人的な体験を重ね合わせることはほとんどできないけれど
ただひとつここだけは感じるところがありました。
身近に起こったことがシンクロしました。
それは、私の息子が大学に入学したことを私の母親、
つまり息子の祖母があちこちで自慢にしているらしいということ。
(地味な大学なのに^^;)
オカンと私の母親は同じような気持ちなのだと思う。

思いも寄らないところでみんな実は親孝行してるんじゃないかな。

 

 ほぼ日刊イトイ新聞 『東京タワー』で会いましょう
http://www.1101.com/tokyo_tower/index.html


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コメント 10

びっけ

実は原作、いまだ読んでいない天邪鬼です。(^^;
映画もまだ観ていません。
でも、テレビドラマでは泣きました。
映画もぜひ見てみたいです。
「時効警察」の霧山くんではない、まじめなオダジョーも見たいし。

この記事で最後の5行に、なぜか涙が出そうになりました。
>思いも寄らないところでみんな実は親孝行してるんじゃないかな。
きっと、そうです。そうなんです、きっと。
by びっけ (2007-04-19 21:14) 

真紅

miyucoさま、こんにちは。感想、お待ちしておりました!TBさせて下さい。
月曜に観たのですが、以来ずっとこの映画のいろんな場面がフラッシュバックするんです。
私は原作の過剰なところに引いたので、映画の薄めた感じが嫌いじゃなかったです。
一番好きな場面は、東京駅のホームでボクがオカンに「この街で、二人でず~っと一緒に住むんよ」っていうところ。
オダジョーがもう、むっちゃ素敵でした。惚れ直しました。
原作のボクとは絶対結婚したくないと思いましたが、映画のボクだったら結婚したいです!
ミズエちゃん!何で別れたん?と叫びそうでした(笑)
ではでは、またです~。
by 真紅 (2007-04-19 22:35) 

mau

原作はずっと前に読んだのですが、オカンの最後が自分の父親とだぶってしまい泣きながら読み終えたのを覚えています。
そのうちになんだかどんどん評判になっていって映画やTVになり見たいような見たくないような複雑な気持ちになっていました。
昨日、たまたま地元のロケ地に行く機会があったのと、miyucoさまのブログを読んでオカンを見に行ってみようかなと思い始めました。
by mau (2007-04-19 22:53) 

miyuco

びっけさん、ダラダラと書いた文章を読んでいただき感謝です。
息子はただ大学生になっただけで、本人にはまったく自覚がないのに実はおばあちゃん孝行してるんだなと思ったとき
それは直接的ではないけれど私が親孝行している部分もあるのではと図々しくも思ったわけです^^;
親の立場で考えてみても、まったく本人が意図しないことで親を喜ばせてくれる子供の行為ってありますよね。

オダジョー、よかったですよ[ラブラブハート]
こんなふうな役柄はもう観られないかもしれないですね。
霧山くんも大好きだけど。
nice!とコメントありがとうございました♪
by miyuco (2007-04-20 10:19) 

miyuco

>真紅さま
嫌いな映画じゃないのに水を差すような文章を書いてしまったと、
ちょっとやさぐれた気持ちになってたところです[汗]
出かける用事があった日がレディースデイだと気づいたとき
真紅さんの記事を思い出してこの映画を観る気になりました。
東京駅のホームでオダジョーがこう言ったときに
オカンが「ハイ!」といい返事をするんですよね。
もう、たまんないです(><。)。。
全身ピンクの衣装を着ちゃうひとなんてオダジョー以外には
いないですよね。
映画のあとに「ほぼ日」の「東京タワーで会いましょう」を見て
パンフレットを買うべきだったと後悔しました。
ヒドイ顔になっていたのでとっとと映画館を脱出したせいで買えなかったのでした…
コメントとTBありがとうございました。
うまく出来ましたらこちらからもTBさせてくださいませ。
by miyuco (2007-04-20 10:29) 

miyuco

>mauさま
「地元のロケ地」公開してるんですか[!?]
オカンが抗ガン剤治療を受けるところはとてもつらかった。
同じような経験がある方はきっともっとつらいだろうと思いました。
絶賛に水を差すような文章を書いてしまいましたけれど
樹木希林のオカンは本当に素晴らしかったですよ。
nice!とコメントありがとうございました♪
by miyuco (2007-04-20 10:35) 

魚河岸おじさん

早速遊びに来てしまいました
優しさに溢れた文章、心に染みました
肩透かしなんて書いてしまいましたが
たくさんの人に見てもらいたい作品です
by 魚河岸おじさん (2007-04-25 17:06) 

miyuco

魚河岸さん、こんにちは。
(おじさんは略、年下の方におじさんとは言えない^^;)
原作を読んでいると原作のリリーさんの感情に入り込んでしまうので、映画を観ると、いろいろ思うことが出てきてしまうのかなと思ったりします。
nice!とコメントありがとうございました♪
by miyuco (2007-04-26 10:23) 

ミック

私はオカン側から映画を見ていたので、みんなと泣くところが逆で、
映画館で、少し変な感じでした^^。
でも、miyucoさんの評論はとっても素敵でした。
そして、私も魚河岸さんをおじさんとは呼べません。
年下の方をおじさんとは呼べないと、コメントしたら、
「全然オジサンです。」みたいな、コメントの返事でしたが、
「ゆる会」で、お会いしたら、全然、おじさんではなく、
優しい、少年の様な方でした。
お母様の具合が悪い様で、とっても心配です。
by ミック (2007-05-20 00:49) 

miyuco

>ミックさん
この映画はフラットな気持ちで観るのが難しいです。
わたしも多分オカン側から観ていたのだと思います。
だって大きな息子が現実にいるんだもの。
しようがないですよね^^;
魚河岸さんのお母さま、心配です。
みなさんの心のこもったコメントを拝見しながら
容態が回復するのを祈っております。
(おじさんと呼ぶのはムリですよね~)
nice!とコメントありがとうございました♪
by miyuco (2007-05-20 18:27) 

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