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『玻璃の天』 北村薫 [読書]

主人公が資生堂パーラーで「ミートクロケット」を食べていた。
わたしも銀座の資生堂パーラーに行ってみたい!
と強く思った次第でございます。(前作でもそう思ったけど)

   

中央は大きな吹き抜けになっている。
二階にはバルコニー席が両袖に付き、下を見下ろせる。
                        (『玻璃の天』より抜粋)

学習院に通う令嬢・花村英子と
その運転手・別宮みつ子(ベッキーさん)が
登場するシリーズ第二弾。
前作『街の灯』が大好きだったので、この本も楽しみにしてました。
期待通りでした。とてもよかった。

士族出身の上流家庭・花村家のお嬢さま、英子さんは15歳。
前期4年、中期4年を終えて、後期の生徒となった。(後期は3年)
軍部が台頭し、満州事変や上海事変などを起こした後、
日本が国際連盟を脱退した昭和8年の東京が舞台。
社会情勢は物語に色濃く影を落とします。

英子が出会うさまざまな立場の男性の印象が強く残りました。
お嬢さまは若々しくもやわらかい感性で
彼らの言動からたくさんの事を受け取っていきます。
陸軍少尉・若月英明氏はこれからも登場するのかな。
(のんきで気のいいお兄さんは「モロッコ」を観て
ディートリッヒのファンになったみたい^^)

3つの物語からなる連作短編集です。
「幻の橋」
名門、桐原侯爵家の嫡子であり陸軍参謀本部の大尉である
勝久様からベッキーさん宛の手紙を
桐原家のお嬢さま道子さん経由で預かることになる。
それは某大学の構内に書かれた落首だという。
それが意味するところは何なのか。
「玻璃の天」で明らかになります。

以下、ネタばれあります。

*****

祖父同士が兄弟でありながら犬猿の仲であるという
ロミオとジュリエットのような二人。
若い二人を慮って両家は歩み寄ることとなる。
その架け橋となるように送られた浮世絵が盗難に遭う。
単なる物取りの仕業なのか。
ベッキーさんのほのめかすような助言を受け
英子は真相にたどりつく。

ジュリエット・百合江の怒りは当然です。
でも、英子は百合江をたしなめる。
英子の言葉に成長しているところが見て取れます。
憎しみの連鎖は絶たなければならない。

「大きな不正を前にした時、
人は誰も抗議したくなると思います。
ただ、何が正しく、何が正しくないかを
決められるのは時だけでしょう。
水中の魚に、己を囲む水はみえないものだと思います。
公の裁きですら誤ることはあるのです。
まして、個人が自分の正義を掲げ、
立場の違う個人を殺すことなど、
許されるわけがないと思います。」

「玻璃の天」を読むときに
ベッキーさんのこの言葉が蘇ってきます。
 
「想夫恋」
暗号解読が楽しい。

「玻璃の天」
ステンドグラスの天井を持つ家で起きた事故。
ベッキーさんの出自が明らかになります。
巻き添えになり父を殺され、
その場にいたためにショックを受けた身重の妹まで失ってしまった男。
最愛の恋人とまだ見ぬ子供を亡くした男。
巻き添えにしてしまった立場の父(その父も殺された)を持つ娘。
三人が対峙する形になります。

対話ではなく暴力で解決しようとする考え。
それを憎みながらも結果的に同じ手段を使ってしまう。
論理を超えたところにあるやりきれない感情をすくい取り
連鎖を絶つ難しさと、だからこそ尊いのだということが
伝わってきました。
ベッキーさんが父を殺した男を暴力以外の手段で
追いつめる機会を彼らは永遠に奪ってしまったという
側面もあるわけです。

英子がベッキーさんではなく「別宮さん」と心の中で呼んだのは
彼女の苦しみを全身で感じ取った瞬間だったのでしょうね。
そして、いつものベッキーさんの顔に戻り物語は終わる。

玻璃の天

玻璃の天

  • 作者: 北村 薫
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/04
  • メディア: 単行本

戦前のお嬢さまの生活は異世界みたい。読んでいて楽しい。
でも、「うれー」とか「おすてー」とかその略し方、意味わかんないっす…
(「嬉しい」「素敵」を略した言葉だそうです)


タグ:北村薫
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コメント 2

こにゃ

こんばんわっ^^
戦前にもそんな略語があったのですね??
最先端?時代はめぐる??
(そして資生堂パーラーのお上品なカレーライスが食べてみたい(謎))
miyucoさんの読書、幅広さにいつも驚かされます。
手に取る基準はなんでしょう~??

[ぴかぴか]20万hit!!遅ればせながらおめでとうございます[ぴかぴか]
by こにゃ (2007-05-15 23:27) 

miyuco

>こにゃさん
資生堂パーラー、若い頃は銀座にいくこともあったけど
はいる勇気が(お金も^^;)ありませんでした。
いまは、銀座に行くことに、まず勇気がいるという
出不精の人間になってしまったわけで[汗汗]
読書は新しいひとにチャレンジすることが
少なくなってしまって実はダメダメなんですわ(v_v。)
nice!とコメントありがとうございました♪
(洗車、がんばります!…ダンナさんが^^)
by miyuco (2007-05-16 18:32) 

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