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潜水服は蝶の夢を見る [外国映画]

ジャン=ドミニク・ボビー ELLE誌編集長
42歳で脳梗塞で倒れ生死をさまよった後に目覚めると、
左眼以外は動かない状態になっていた。
意識ははっきりしているのに話すことはできない。
言語療法士に教えられたコミュニケーションをとる方法。
「瞬きがあなたの言葉です」
「“はい”は一回、“いいえ”は二回」
彼は左眼の瞬きだけで自伝を書き上げる。

こんな状況になったら誰もが解放されたいと思うはず。
死んでしまった方が楽だと考えるはず。
でも自分で死ぬことすらもできないのだ。

乾いたタッチです。お涙頂戴とは無縁。
絶望と痛みが延々と描かれているのかと
思ったらそうではなかった。
潜水服をつけて暗い海を漂うショットで
それは繰り返し提示されるけれど。

海のなかにやぐらのようなものが立ててあり
その上に車椅子のジャン=ドーがいる。
荒れ狂う波のなかにポツンとひとり。
とても印象に残った映像です。

ジャン=ドーの左眼に同化しているカメラワーク
暗闇からぼやけた映像になり医者の顔が目に入る
昏睡状態から醒めたばかりのジャン=ドーは
徐々に自分の置かれた状態を理解する。
観客である私たちも。
氷河が崩れ落ちるイメージ。
アルファベットを指定している途中でも
文章の流れは予想がつく
フランス語がわかれば
視界に映し出される女性たちの表情の変化の意味が
もっとダイレクトに伝わってきたかもしれない。

ジャン=ドーのモノローグだけで
音楽が流れないシーンが続く。
音楽が流れるのはこう考えたときから。
「自分を憐れむのはやめた」
「僕には想像力と記憶がある」
身体が不自由になっても
以前と同じように美しい女に反応し
ブラックジョークに大笑いし、
妻(子どもたちの母親)を傷つける。
この精神があるから蝶になることができたのでしょうね。

「merci 」
と伝えて言語療法士アンリエットが微笑むと
「女は単純だな」とつぶやくシーンで
ジャン=ドーが好きになりました^^

流れる音楽が英語の曲でびっくりしました。
オープニングではシャンソンが流れていたし
フランス映画だと思っていたから。
「Don't Kiss Me Goodbye」Ultra Orange & Emmanuelle
(セリーヌを演じたエマニュエル・セリエ)
「Ultra Violet (Light My Way)」U2
「Pale Blue Eyes」The Velvet Underground
ものすごく好みの曲ばかり。
日本でもサントラが発売されたら手に入れるのにな。
http://www.amazon.com/gp/product/B0013AT0BG/ref=dm_sp_alb

エンドクレジットでは崩れ落ちた氷河が逆回転で再生される。

「死への恐怖」が映画からは感じられなかったけれど
実際の彼はどう思っていたのかな。
「死」を受け入れていたから
あんなふうに「生きる」ことができたのかな。
事故にあってからの期間が
死ぬまでの「猶予」だと考えていたのかな。
そう考えていたとしてもジャン=ドーのように
意識的に「生きる」ことは難しい。
私なら絶望で閉じこもってしまうかもしれない。

一緒に車に乗っていて
父親の異変を目にした男の子が気の毒でした。
どんなにショックだっただろう。
車椅子のパパのよだれをふく。
ジャン=ドーが年老いた父親のヒゲを剃ってあげたように。

「E、S、A、R、I、N……」
とボードのアルファベットを読み上げる
(フランス語単語の使用頻度順に並べたもの)
瞬きで合図して単語を選ぶので、
それは繰り返し読み上げられる
その音がとても心地よかった。
献身的なサポートに感動します。

編集部からやってきた女性クロード
彼女と牡蠣を食べるシーン
(ジャン=ドーのイマジネーションの産物)が
色っぽくて魅力的でした。
出てくる女性がそろいも揃って美形で
誰が誰だかわからなくなりそうだった[バッド(下向き矢印)]

かつて結核患者のための病院だった時代の
やんごとなき女性と抱擁し
ニジンスキーの跳躍を目の当たりにする。
想像力の生み出す映像が画面にあらわれる。

身体が不自由でも意識ははっきりしている
というシチュエーションから
「ジョニーは戦場へ行った」を連想しました。

くわしく覚えていないのに
「殺してくれ!SOS!」
と叫び続ける場面が頭に浮かんで…
「潜水服は蝶の夢を見る」を見るのは
どうしようかと思っていたのですが
これはまったく違った方向の映画でした。
そうだよね、ジョニーを「人」として扱っていないあの状況と
ジャン=ドーを取り巻く状況とは違いすぎるものね。

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Victoria

こんばんは(*´ω`*)はじめまして。
とっても気になっている映画なのですが、やっぱり観にいってこようと思わせるレビューでした(*´ω`*)
by Victoria (2008-03-08 00:23) 

真紅

miyucoさま、こんにちは。拙記事にコメントとTBをありがとうございました。
こちらからは届いておりますでしょうか?

音楽、とってもよかったですよね!サントラが発売されないのは本当に残念です。
アメリカ人のジュリアン・シュナーベルが、フランスでフランス人俳優を起用し、フランス語で撮ったことが素晴らしいと思いました。
流暢だというジョニデのフランス語も聴いてみたいとは思いますが・・。
『ジョニーは戦場へ行った』、子どもの頃テレビで観て、物凄く恐ろしかったのを憶えています。
先日放映があったのを録画しているのですが、再見する勇気がなかなか・・・。
この作品を観た今なら、また違った思いも出てくるでしょうね。
ではでは、また来ます~。
by 真紅 (2008-03-08 10:17) 

miyuco

Victoriaさん、はじめまして[ぴかぴか]
映像も音楽もとてもすてきな映画でした。
気になっていらっしゃるなら
映画館で観た方がいいと思います!
nice!とコメントありがとうございました♪

by miyuco (2008-03-08 18:40) 

miyuco

真紅さま、コメントとTBありがとうございます。
TBは「承認後に表示」というのに設定してみました。
この映画は真紅さんの文章を読んで観に行ったのでした。いつも密かに参考にさせていただいてます[ニコニコ]
ジョニデのあの声でフランス語なんてドキドキしそう[ラブラブハート]

「ジョニーは~」を観たのは10代の頃一回だけですが強烈に焼き付いている作品です。でも今の年齢になってしまうと目を背けたくなるばかりで観ることなどできそうもありません。あまりにつらいです。



by miyuco (2008-03-08 18:50) 

sknys

miyucoさん、こんばんは。
SF小説風のタイトルなのに、実話なんですね。
瞬きの回数でYes / Noの意志表示をしたという話は
聞いたことがあります(映画は未見)。

フランスの男女デュオUltra Orangeが
女優Emmanuelle Seigner(ロマン・ポランスキーの妻)を
ヴォーカルに迎えたアルバム《Ultra Orange & Emmanuelle》は
国内盤が出ています。

〈Don't Kiss Me Goodbye〉も収録されているけれど、
残念ながら全曲英語!
‥‥顔に似合わず可愛い声のEmmanuelleさんの
仏語ヴァージョンを聴きたかったなぁ^^;
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/B000SM6ZZO/
by sknys (2008-03-10 00:10) 

miyuco

sknysさん、こんにちは。
フランス語ってなんであんなにセクシーなんでしょうね。
映画でEmmanuelleさんがフランス語を話す声も
すてきでしたよ[ラブラブハート]映画を観てから
〈Don't Kiss Me Goodbye〉のシュガーヴォイスが
頭のなかを駆け巡ってます^^
しっかしsknysさんはいろいろな音楽をご存じですね。
コメントありがとうございました♪
by miyuco (2008-03-10 14:30) 

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