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『草冠の姫』  大島弓子 [大島弓子]

『ヒー・ヒズ・ヒム』1978年週刊マーガレット8号掲載
『草冠の姫』1978年別冊少女コミック5月号掲載
同じ頃に『綿の国星』があったなと思って調べてみたら
「1978年LaLa5月号掲載」となっていた。
50頁の『草冠の姫』と100頁の『綿の国星』を、
ほぼ同時期に書いていたってこと?
…すごすぎますわ…
高校生だった私は連続してこの作品群を読んでいたわけです。
さぞや狂喜乱舞だったことでしょう^^

聞いたか

新緑よ

彼女は

まだ花をつけない

草の冠を

かぶってたんだ



これは彼女の謎の行動の意味がわかったときの言葉
1ページまるまる使ったこのセリフが大好きです。

「自分に自信を持つ」とか「自分は自分と言い切る」ことは
とても難しい。特に10代の頃は至難の業だった。
この物語の主人公、桐子さんにとってもそれは難題でした。
なにしろ身近な姉が「花かんむりの姫」ですから。
自分はそうなれない、けれどそうなりたい、そうならねばと
思ってしまったら、姉をトレースするしかないわけです。
それを思いっきり一生懸命やってしまうのが
大島弓子の世界の住人です。
たとえそれが、はたから見れば滑稽で理解しがたい行動だとしても。
けれども、それはいつか破綻してしまう。
桐子は貴船くんと出会って「草冠の姫」になることができました。

両刀づかい、遊び人と噂される貴船くんは
ふとしたきっかけで桐子さんと知り合います。

桐子を理解しようとすると頭がこんがらがる。
支離滅裂思考。きのうは右、きょうは左。
にがいコーヒーをまずそうに飲む。
砂糖をいれてはいけないような気がするのでムリして飲む。
時計の音がこわい。

16年前に買った柱時計。
時計屋さんであれこれ選んでふたつだけ残り
両親は姉と妹にどちらがいいかと聞いた。
姉が選んだシックな時計に決めて、
それが居間におさまった時
両親はこっちのほうが部屋にぴったり
こっちにしてよかったと言った。
「わたしは姉の審美眼にうたれて
口をあけてその時計と部屋をながめたものだった」


桐子は子どもができたと言う。
確かに自分の部屋に泊まっていったけれど
貴船はまったく身に覚えがない。
泥酔した桐子の寝顔を見ていただけなのだから。


桐子のお姉さんを見たとき、謎はとけました。
「頭には大輪の花の冠をいただいているようなふぜい」
妹は姉の行動と嗜好をすべて肯定し優先してすごしてきた。
自分に自信が持てなかったから。
でもそれはやっぱり破綻している。

ぬけだすきっかけは貴船くんでした。
「赤んぼう産みなよ!!オレ父親になるよ」
たぶん桐子はこの時初めて人から肯定してもらったのでしょう。
「産まない選択をした姉」ではなく
「産む選択をした自分」を
肯定してくれる人がいる。
そして自分も姉とは違う選択をして「産もう」と決めたとき
ぬけだすことができそうな気がした。
(想像妊娠だったけど^^;)

わけわかんないと思いながらも受け止めてくれる貴船くんは
「バナナブレッドのプティング」での御茶屋峠のようです。

親子関係が混乱していて
どこか根無し草のようになってしまっている貴船くんだから
自分が誰だかわからなくなっているような桐子のことが
理解できたのかもしれないなと思います。

「草冠の姫」になった桐子さんは
お姉さんに倣った洗いざらしのシャツをやめ
お似合いの服を着ている。
とっかえひっかえ違う女性とつきあっていた貴船くんなのに
今では彼女のことばかり考えるようになってしまったのでした。

この魔女は会うと

天真のほほえみをうかべ

コーヒーにサトウを5はい入れて

かきまぜずにのみほし

このあとに残った

おサトウが格別なの と

新しい発見をする


*
*
*

桐子の寝顔を見ながら貴船くんはこんな事を言います。

「しかしまあ…この寝顔
まるで子どもだな
うん…
3歳まえの子どもって
こういう顔してるんだ
言葉なんてかけられないで
思わずみとれてしまう気高さだよね」

子どもが生まれて寝顔を見ているときに
このセリフを思い出して
ほんとにそのとおりだわと思ってました。

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↑クリックすると大きくなります。
すてきなラストシーンです。
大好き

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タグ:大島弓子
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コメント 6

がり

はじめまして。
タグで大島弓子の名前を見つけて、
すっごく懐かしくておじゃましています。
竹宮恵子.萩尾望都 きゃぁ なつかし~。
大昔、漫画命だった頃を思い出しました。
どれだけお小遣いをつぎこんだか、
ホント漫画命の少女時代でした。(笑)

by がり (2008-04-09 20:11) 

miyuco

がりさん、はじめまして。
「どれだけお小遣いをつぎこんだか」
まったく同じでございます^^;
ため込んだマンガで二階の床が抜けるんじゃないかと
親に冷たい目で見られながら過ごしていました。
それが血となり肉となり身体にしみこんでいるのを
今でも実感している次第です。
「タグ」できていただいたなんて嬉しいです!
コメントありがとうございました♪
by miyuco (2008-04-10 16:05) 

びっけ

こんにちは。
私は、桐子の両親が、姉の選んだ時計を褒め称えたというくだりに胸がせつなくなりました。
親にすれば何気ない一言だったのでしょうが、それが子どもの心に傷を残すことって、結構あるんですよね。
私も気をつけなくちゃ・・・・・・遅いか・・・。(^^;

この作品を読む前から、私はコーヒーに砂糖をたっぷり入れてかき混ぜずに8割くらい飲み、最後にカップをくるくる回して砂糖を溶かし、あま~いコーヒーを飲むのが大好きです。
さすがに、スプーンでホジホジして飲むことはありません。(笑)

※ またまたトラックバックさせてくださいませ。
  そして、miyuco さんもトラックバックしてくださると嬉しいです。
  miyuco さんの分析(解釈)、すごく いいんですもの。
by びっけ (2008-04-11 23:52) 

miyuco

>びっけさん
時計の話のときの3つだった桐子の顔が
何とも言えずせつない表情でわたしも胸が痛くなりました。
本当に何気ない一言だったんでしょうけどね。

ウチの母親がコーヒーを入れてくれると
大量の砂糖が底に沈んでいるものが出てきますので
私の意思とは無関係にびっけさんと同じものを
飲んでいたということになります^^;
今でもブラックは飲めないです。

こちらからもTBさせていただきました。
びっけさんへのトラックバック企画(笑)「きゃべつちょうちょ」も
待機中です[__晴れ]

nice!とコメントありがとうございました♪

by miyuco (2008-04-13 09:48) 

おきざりスゥ。

優秀な姉を持つ妹の物語を山岸凉子も描いていましたね。
〈木花佐久毘売〉で妹は姉によって咲耶と名付けられていました。名前では時計より逃げようがない。妹を一個の独立した人格として認めてくれる異性に出会い救われるラスト。
設定も流れも大筋で同じですが正に“何を書くかでなく如何に書くかである”という言葉通りで比較すると面白いかも。
スゥ。は〈草冠の姫〉のが好き。
(詰まるところ選択は個々人の好みですが挙げた〈木花佐久毘売〉お凉さんはチト本領発揮できてない感じで好きずき度外視してもユーミンに軍配は上がりそう)

ところで…びっけサンところにスゥ。が初めてコメントつけた記事が〈草冠の姫〉でした。一昨年の冬。
もちろんmiyucoサンとこ経由で。
それまでROMだったのがコメントを寄せたくなったのは朧な記憶が刺激されたからかしらん。手元に作品はないけれど御二人の記事に触れることでページを捲るようにパァッと内容を思い出します。嬉しいこと。

1度も会ったことのない方たちと友達気分になれるブログって不思議。
スゥ。もチャンと更新してれば交遊の輪も広がるでしょうに…(--;)
携帯電話での打鍵が煩雑なのは大きな理由ですが…他所様には長文のコメントを付けてしまうのに自ブログの記事が書けないのは何故?なんか心理的な障壁が?
by おきざりスゥ。 (2008-04-25 12:19) 

miyuco

姉と妹の関係が面倒なものだということは
私も身をもって理解しています^^;
身近な問題なので題材になりやすいのかもしれない。
「木花佐久夜毘売」は読んでないと思います。
でも最後に救われると聞くとホッとします。
山岸凉子の作品は無惨に突き放されて終わることがあるので
つらいのです。
ふふふっ、他所様には長文のコメントをつけてしまうのに
自分のところはどうも書けないというのは同感でございます。
びっけさんのところにコメントつけてるほうが
楽しいんだもん[__晴れ]
nice!とコメントありがとうございました♪

by miyuco (2008-04-25 18:57) 

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