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『ポーの一族』 萩尾望都 [コミック]

大島さんが『雨の音がきこえる』を発表したのは1972年
『すきとおった銀の髪』は
ほぼ同時期に別コミに掲載されました。
「ポーの一族」シリーズ第一作

『すきとおった銀の髪』『ポーの村』
『グレンスミスの日記』は単行本になってから、
『ポーの一族』
(「別冊少女コミック」1972年9月~12月号) は
リアルタイムで読んでいます。

『ポーの一族』『メリーベルと銀のばら』
(「別冊少女コミック」1973年1月~3月号)
連続してこのふたつの作品を読んでしまったあの当時
他のすべての少女マンガが色あせて見えました。
それほど衝撃だったし、とてつもなく魅力的でした。
中学、高校生の頃、何回も何回も読み返しました。
(『小鳥の巣』も続けて1973年4月~7月号に連載されていた
思い返せばなんと贅沢なマンガライフを送っていたことか)

アンケートの結果が良くなかったということは
後になってから知りました。
たしかに別コミの中では、
というより少女マンガでは異質でした。

萩尾望都パーフェクトセレクションで
何十年かぶりに読み返してみて、
改めてその恐るべきクオリティを実感。
これ、当時の同業者はどれほどショックだったんだろう。
ほぼ同い年の大島さんと比較しても
この時点での力量の差はあまりに歴然としています。

『ポーの一族』でメリーベルは消滅してしまった。
『メリーベルと銀のばら』で時はさかのぼり
『小鳥の巣』では一気に時が進み、現在に近くなっている。
入り乱れる時間軸に翻弄されて、
メリーベルがエドガーと一緒にいた時間は
とても短かかったのだと最初は思っていた。
でもよく考えると100年以上かたときも離れずに
生きていたのですよね。
メリーベルを失ったエドガーの悲嘆は
どれほどのものだったのか。

「ポーの一族」の批評はわたしの手に余るので
個人的なことをつらつらと。

今回読み返してみて当時とても印象に残ったコマを思い出した。

0513 005.jpg

↑クリックすると大きくなります。

左上のコマの何かにひっかかって、
いつまでも印象に残っていた。
やっとわかった。
右ページの最後のコマから左ページに移るときに
カメラを引くような描き方をしているのですね。
風にあおられるドレスのすそ、不安定な体勢、
不穏な空気が波乱の幕開けを感じさせます。
ここからは怒濤の展開でした。

『メリーベルと銀のばら』が
シリーズの中では一番好きです。
甘やかなシーンがあったからかな。
それは悲劇の序章でしかないのだけれど。

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ジンチョウゲ

ジンチョウゲ

金色ににおう

からみつくよ

からみつく

愛してる


『エヴァンスの遺書』に再びこれが出てきたときは
感動でした。
川原泉『笑う大天使(ミカエル)』でも再現された
言わずと知れた名シーン

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こちらのページの詩のようなモノローグが大好きでした。
今でも諳んじることができます。

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あこがれよ 夢よ

しばしば 想い出に生きるものよ

うちすてよ 銀のばらを

手折ることのかなわぬ うつし世の愛を



あなた 恋人は

やさしく暖かく

息をくちびるに 吹きかける

その確かな今の

時とともに


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よしながふみ対談集「あのひととここだけのおしゃべり」を
読んでいたら「グレンスミスの呪い」という話が載っていた。

「萩尾望都に呪われた作家・今市子」
「このシリーズの一編に『グレンスミスの日記』という
名作がありまして、私はこれは70ページくらいの作品だと
ずーっと思っていましたが、
ある時、かぞえてみたら実は 24ページしかなかった。
(中略)以来、私は24ページという 数が怖くなってしまった。
私にはあれだけの内容を24ページで
描く事はとてもできないから。
周りの人達から “グレンスミスの呪い”と呼ばれてました」

今市子さんがエピソードを詰め込みすぎてしまうのは
この呪いがあるからだそうです。

1970年代に読んでいた少女マンガには
実際には16ページ、24ページなのに
とてもそれだけのページ数だとは思えないものがありました。
今市子さんの気持ちがとてもよくわかる。
『半神』は16ページだもの。
http://www.toofectarts.com/videoshelf/shortshort/100/110.htm
↑以前にも紹介したAA化した「半神」
『一週間』も16p
エドガーのいない間に好き放題するアランが可愛かったな。
気ままに過ごしていてもだんだん寂しくなってしまう^^
シリアスな雰囲気のシリーズの中で
ちょっと気が抜ける小品でした。

萩尾さんには充実したファンサイトがあってとても楽しい。
「萩尾望都研究所」
【メリーベル加筆比較】問題をめぐって
これがおもしろかった!
単行本化にあたって大幅に加筆修正された件についての対談です。

「萩尾望都作品目録」
萩尾ファンである恩田陸のSFの原点は
「ドアの中のわたしのむすこ」だそうです。

ウィキペディア(Wikipedia)「ポーの一族」の年表がうれしい!

友だちと手分けして、
発売された少女マンガ誌をほとんど全て買い求め
処分せず私の六畳の部屋に積み重ね、
何度も読み返すという至福の日々。
そんな少女マンガにどっぷりの生活が始まったのは
萩尾さんとエドガーのせいだといって過言ではないでしょう^^;


タグ:萩尾望都
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しーちゃん

この頃の萩尾望都、リアルタイムで暗唱できるほど読みました。
そう、「グレンスミスの日記」24ページなんですよね。すごすぎる。
今市子さんというマンガ家は知りませんでしたが、その気持ち
とてもよくわかります。
by しーちゃん (2008-05-15 01:37) 

おきざりスゥ。

miyucoサン600本目の記事UPおめでとうございます。
満を持しての〈ポーの一族〉ですね。
(この作品について語ると他所様でまた長っ尻になること請け合いなので注意しつつ^^;)

〉思い返せばなんと贅沢なマンガライフを送っていたことか

「貴女は貴女の選んだもので出来ている」とナレーションの入る車のCMがあるけれど目に触れる選択肢にも限りがある中で毎月全国の本屋の子供の小遣いででも手に入れられる雑誌に質の高い作品が溢れていた時代に居合わせたとは我々の何と幸運に恵まれていたことでしょう。
山本高広の織田裕二ネタじゃないけれど「(あの時代の)日本に生まれてヨカッターッ!」と云いたくなります。

〈ポー〉は欧州が舞台なので子供の頃は単純に外国のオハナシと受け取っていましたが今おもい返せば当時の日本で女性作家の手によってしか生まれ得なかった作品でした。

物語で云えばキリスト教文化の下で生き血を啜っていた忌まわしい吸血鬼が薔薇のエナジィを指先から得るパンパネラに変化するには八百万の神まします鳥獣草木悉皆成仏な文化を通過する必要があったのだし描画で云えばディズニーアニメの影響下で動きのあるカッチリしたコマ割りの手塚氏を頂点とする少年漫画に対し1頁に動きのない絵を大きく配しながらも周りに(多くは登場人物の心象風景であって物語の中にすら実在しない)花や柔らかい布なぞを置くことで1コマの内に現在・過去・未来を同時に現出せしめる等の手法は正に屏風絵のものに他ならないでしょう。
そして異質な(あまりにも異質な食文化をも含む)文化を持つ一族を描く時そこに戦いの要素の見られないことは基本的に版図を広げる野心より自らの生活空間の守備を優先し共生を指向する女性の視点が働いていると思えます。
(〈ポーの一族〉〈メリーベルと銀のばら〉に逐われるものとしての描写はあるが人類vsパンパネラの争いには発展しない。ジョン・オービンもヘルシング教授の如くでなく恋のように彼らを追っているしポーの一族側も不老不死ゆえに蓄積されているであろう豊かな知恵や技術を武器に逐われる立場を逆転させようとはしない。人知れずポーの村で
「ばらを作って生きてきましたよな」
菜食主義の吸血鬼なぞ欧米人や男ドモに発想できるだろうか!?)

ひとり萩尾望都の天才を云うとき知らず我々は彼女の蒸留釜で抽出された洋の東西の美を純で濃厚な精髄として味わっているのだと感嘆します。

〉メリーベルがエドガーと一緒にいた時間はとても短かかったのだと最初は思っていた。
でもよく考えると100年以上かたときも離れずに生きていたのですよね。

〈十二国記〉でも陽子に鈴と祥瓊が「同じくらいの年の少女なので気になった」と云う場面で不思議に感じたのですが(あんたたちモノスゴク年上なんぢゃ…^^;?)外見の内面に作用する度合いは如何ほどなのでしょう?
エドガーはメリーベルの
「わたしたちはずっとこどものままだからいつまでもはるかな国の花や小鳥を夢みていていいのね兄さま」と云う言葉をアランに伝えるけれど初登場の〈すきとおった銀の髪〉からメリーベルはチャールズに対して明らかに大人の女性の顔を見せています。
彼女はエドガーのためにだけ長い間おさない少女のままでいたのかもしれません。100年以上もの間お互いに2人でいる時は14と13の人間の兄妹の振りをし続けたのかも…?

好きな短編は〈一週間〉同様クロニクルからは独立した雰囲気の〈はるかな国の花や小鳥〉
(〈一週間〉がアラン編なら〈はるかな国~〉はエドガー編でしょうか)
そこにはない城を2人で見たエルゼリの回想が胸に沁みます。
あとはドン・マーシャルがエドガーとアランに国定公園で会う話(このコメントを書くためにWikiで年表確認したのに作品名が思い出せない情けない(T_T)それに〈ペニーレイン〉の内容もサッパリ浮かんで来ない…orz…どんな話でしたっけ(--;)手元に本がナイと辛い)
どの話でも印象に残っている絵や台詞が目裏に浮かぶものの確信が持てません。もぉ充分お邪魔しましたし(←不安的中…)ソロソロおいとま致しまスゥ。
by おきざりスゥ。 (2008-05-15 10:12) 

miyuco

>しーちゃんさん
「グレンスミスの日記」は戦争をはさんだ
長い年月の物語なのですよね。
それをあのページ数でまとめてムリがないのだから
呪われてもしかたないかな^^;
今市子さんの「百鬼夜行抄」は萩尾さんもお好きなようです。
ちなみに私も大好きです。
nice!とコメントありがとうございました♪


by miyuco (2008-05-15 18:34) 

miyuco

>スゥ。さん
600本目の記事に600番目のnice!を押していただいて
ありがとうございます!
五月初めにこれをアップして
きりよく4年目のスタートを切る予定だったのですが
例のごとく計画倒れ^^;
スゥ。さんをはじめとしていろいろな方からいただくコメントがあるから
ここまで続けてくる事ができました。感謝いたします。

いつもにも増して中身の濃いコメントに感激です。
「ポーの一族」がどうしてこんなにも評価されるのか
よくわかります。私にはとてもここまで書けないです^^;

そうですね、メリーベルは確かに大人びてましたね。
「小鳥の巣」はエドガーの心が老いているようで好きになれませんでした。
「メリーベルと~」の翌月から続けて連載されたので
リアルタイムでは一ヶ月しかたってなかったわけで
エドガーが唐突に変わってしまったように感じましたが、
物語上では200年の歳月が過ぎているのだから当然なのですよね。

「はるかな国の花や小鳥」エドガーが感情を取り戻したように思えて
印象に残っています。私も好きです。
国定公園は「ランプトンは語る」のなかのエピソードでした。
クエントン卿の館でジョン・オービンが“狩り”をしようとする。
「ペニーレイン」は「メリーベルと~」の直後、
アランの目覚めを待っている間の話でここでリデルと出会います。

それにしても手元に本がないのにこれだけ書けるとは
相変わらずすごい記憶力ですね^^
ケータイから長文を書くのはたいへんだったのではないですか?
本当にありがとうございます!

「(あの時代の)日本に生まれてヨカッターッ!」
に心から同意でございます。ここ読んで笑っちゃった。
by miyuco (2008-05-16 16:42) 

sknys

miyucoさん、こんばんは。
『ポーの一族』はリアルタイムで読んでいないので、
『はみ子』『綿国』『処天』などに較べると衝撃度は落ちるけれど。

連作やオムニバス作品とも異なるシリーズ構成、
主人公が時空を超えてエピソードを重ねる「タイムトンネル」構造や
圧縮された緻密さと儚さにモーさまの美意識を感じます。

クロノロジカルに物語らないことで、空白を読者の想像力に委ねる。
何を描くかではなく、何を描かないか
‥‥16頁で短篇(起承転結)を描くのが少女マンガの基本文法。

単行本3〜4巻で完結するのが長編として最適な長さではないかな。
10巻以上の長きに渡る平成の「少女マンガ」は
水増しされた薄味のカルピスを飲んでいるようで味気ないなぁ
(全巻揃えようとすると結構な金額になるし‥‥)。
by sknys (2008-05-24 23:22) 

miyuco

sknysさん、こんばんは。コメントありがとうございます。
この頃の「別コミ」はそれほどおもしろくなかった^^;
お子さま向けというような雰囲気でした。
だからこど萩尾さんの異質にも見える完成度の高い作品が
強く印象に残りました。

「花とゆめ」と「LaLa」が刊行されたときは
きら星のごとく強力なラインナップで本当に嬉しかったです。
by miyuco (2008-05-25 23:20) 

びっけ

こんにちは。
これは、ちゃんと読み直してからコメントを付けなくては・・・。
と、図書館から全3巻を借りて読んでみました。
・・・買えよ! 自分!(笑)

手塚治虫が日本漫画界の重鎮でありキングであることを認めるのにやぶさかではありませんが、個人的には、萩尾望都の作品は、それを遥かに上回るクォリティだと改めて思いました。
特に『ポーの一族』は、凄すぎます!
古今東西、ヴァンパイア物は数あれど、時間軸、空間軸を軽やかにあやつって、これだけのドラマを書ききった力量は賞賛に値します。
文化勲章とか、あげてほしいです!!

私も一番好きなのは『メリーベルと銀のばら』かな。
幼い兄妹の数奇な運命、ドラマティックな展開に、固唾を飲んでむさぼるようにこの漫画を読んだ日を思い出しました。

学生時代、好きだった先輩が、髪を切ってきた日に(就職試験のため)、彼は
「髪を切ったの 魔法使い」
と言いました。
私は、その頃、まだ『ポーの一族』全部を読んでなかったので、意味がわからなかった・・・。
あの時、オービンのことだとわかっていれば・・・。
by びっけ (2008-05-26 00:01) 

miyuco

びっけさんの先輩に今、一瞬で恋におちてしまいました^^
このセリフを言われたらたまらないです。
彼はきっと魔法使いの目をしているんでしょうね。
(↑いろいろと妄想中)

『ポーの一族』と『メリーベルと銀のばら』を最初に読んだのは
中学生になる直前だったので凄さを感じながらも
きちんとは理解してなかったのかもしれない。
その後何回も何回も読み込んでゆっくりと吸収されていったような
気がします。掲載紙は家を離れるまで手離さなかったです。
(基本は切り抜き。単行本を買う余裕はなかった^^;)

今回久しぶりに読み返して改めて萩尾望都の凄さを実感しました。
「トーマの心臓」も読んでしまったのですが…
どう書けばいいのかわかんないです(v_v。)
nice!とコメントありがとうございました♪


by miyuco (2008-05-26 17:49) 

miyuco

あてなさん、nice!ありがとうございました♪

by miyuco (2009-03-09 14:08) 

ペニーレイン

通りすがりのものです。

「ペニーレイン」は「ポーの一族」の直後のお話ですね。

実はこの作品、私が初めて読んだ萩尾作品でした。
当時、アランやエドガーと同じ(?)14歳の少年は、
この作品にとても衝撃を受けたため
今でも萩尾作品を追いかけています。
by ペニーレイン (2010-01-11 06:23) 

miyuco

ペニーレインさん、こんにちは。
この作品が別コミに掲載された1975年には
私も14歳でした^^
エドガーの感情(恐怖や底知れない孤独などなど)が
迫ってきて怖いような気持ちで読んだことを覚えています。
衝撃を受けたというのはよくわかります。
私もいつまでも萩尾さんの作品を追いかけたいです。
コメントありがとうございました。
by miyuco (2010-01-11 18:26) 

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