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『流れ行く者―守り人短編集』 上橋菜穂子 [読書]


流れ行く者―守り人短編集 (偕成社ワンダーランド 36) (偕成社ワンダーランド 36)


父を王により殺された少女バルサ
親友の娘を助けるためにすべてを捨てたジグロ
ふたりは追ってをのがれ、流れあるく
番外編にあたる守り人短編集。

 

 

「守り人シリーズ」を読み終わってからこの本を読むと
何とも言えず感慨深いものがありますが
アニメ「精霊の守り人」はみたけれど
本はまだ読んでいないという方でも
十分にシリーズの世界観を堪能できると思います。
ぜひ、お読みになってみてください。
上橋菜穂子さんの力量を思い知らされました。
素晴らしいです。

偕成社のページから立ち読みが出来ます。
http://www.kaiseisha.co.jp/newbook/new110.html

タンダが11歳バルサ13歳の頃の四編からなる短編集。
ここに出てくるエピソードは本編でバルサが語る言葉と重なります。
バルサの根っこをつくった日々のできごと。

シリーズではバルサの回想で出てくるだけのジグロが登場。
バルサはジグロを「父さん」と呼んでいたのね。
ふたりの暮らしぶりがよくわかります。

流れ者の末路が描かれているがバルサはまだ幼く
ジグロと自分の行く末に思いを馳せることなどできない。
自分の抱える憎しみに手一杯であり
ジグロが呑み込んでいるであろう複雑な感情が
どのようなものなのかを考えるのはまだ先のこと。
目の前に広がる世界に好奇心に満ちた若々しい姿勢で踏み込んでいく。
保護者ジグロが側にいる少女時代のバルサ、そしてタンダの物語。


「浮き籾(もみ)」
稲刈りの作業、収穫が終わった後のお祭り
その時々の食べ物の描写、
まるで実際に存在している生活を切り取ったかのようです。
水に籾を入れると実がしっかりつまった籾は沈み
浮かんでしまった苗は捨てられる。
浮き籾とはちゃんと実ることのないすかすかの籾。
夢とうつつの狭間で不思議なものを見るタンダは
家族からしっかりしていないと思われている。
そんな自分を浮き籾に重ね合わせているのかもしれない。
タンダは不思議なものの正体を教えてくれたトロガイ師を慕っている。
そしてトロガイの家にはバルサがいる。

地道な暮らしを嫌い村を出て最後にはのたれ死にした「踊りオンザ」
オンザが村を祟っているという噂にタンダは我慢できない。
自分をかわいがってくれた「髭のおんちゃん」オンザは
そんな人間ではない。タンダはそれを確かめたいと思う。
タンダの真っ直ぐな気性はこの頃からずっと変わらないのですね。

「ラフラ<賭事師>」
そのときジグロは用心棒、バルサは給仕として酒場で働いていた。
そこには名のあるラフラ(専業の賭事師)」が滞在している。
ラフラは七十ほどに見える小柄な老女だった。
サイコロを使う賭博「ススット」
アズノという名のラフラは絶対に大負けしないコツを教えてくれる。
「うまく逃げることさ」

アズノが50年も続けている「ロトイ・ススット(長いススット)」の相手は
ロタ王国の士族の武人だった。
最後の勝負、アズノは自分の分をわきまえラフラとして最良の方法を選ぶ。

それまで続けていたロトイ・ススットは「ラフラ」として戦っていたわけではない。
金を賭けず楽しみとして勝負していたとしたら
アズノは最後までそのまま続けていたかったのかもしれない。
しかしやはりそれは許されなかった。
アズノは複雑な気持ちだったのではないでしょうか。
苦い後味が残ります。
そして、この苦さを描ききる作者に舌を巻きます。

「流れ行く者」
深手を負って高熱を出しているジグロのそばで
かつてない養父の衰えを感じ不安におののくバルサ。
命がけで酒場を救った用心棒を働けない病人だからと
粗末に扱う主人に「恩義を感じないのか」と憤るバルサに
ジグロは「おまえは、勘ちがいをしている。」と言う。
もっと報われてしかるべきだと思うのは筋違いだと。

病が癒えると護衛士をつとめながらヨゴに戻ることとなる。
危険できつい隊商仕事。
そこには護衛士として血にまみれ流れて暮らしてきた
初老の男がいた。
バルサは流れ者の末路をまざまざと思い知らされる。
血と嘔吐物にまみれて悲鳴をあげているバルサが痛ましい。

「寒のふるまい」
壮絶な話のあとにこの温かい6ページの作品をのせてくださる
上橋さんの心遣いがとても嬉しいです。

またバルサとタンダに会わせていただいてありがとうございました。
そして…あと何回でもお会いしたいと願っています。


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miyuco

bintenさん、こちらにもnice!ありがとうございます。
by miyuco (2008-08-19 21:18) 

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