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『白夜行』 東野圭吾 [読書]

名作の誉れ高い本作品。
連れ合い(東野圭吾ファン)が読み終えたあと
ずっと本棚に眠っていた。
私もいつか読むかも知れないけど
気が向くのはいつになるのかなと思ってました。
その「いつか」がとうとうやってきて
読み始めたらあっという間に読了。

ノワール(暗黒小説)でした。
ふたりの人間の直接的な接触は描写されない。
しかし周りにいる第三者によって語られる物語が
絶妙に配置され、絡み合って生きているふたりの
濃密な関係が浮き彫りにされる。
見事です。
「容疑者Xの献身」で直木賞を受賞したときに
ファンの間では「白夜行」こそがふさわしかったのに
という声が多かったそうですがそう言いたくなる気持ちが
よくわかりました。

1973年に起こった質屋殺しがプロローグ
事件は迷宮入りする。
被害者の息子・桐原亮司
容疑者の娘・雪穂
二人は全く別の道を歩んでいるように見えるが…


雪穂は表舞台をひた走り、
亮司は雪穂の周りに姿を見せることは決してない。
物語はそんなふうに進んでいく。
しかし亮司は最後に見とがめられる。なぜか。
それは追う者が現れるはずだと確信していたから。

誰もその存在を意識していないから見えなかっただけ。
ずっとそこにいたのに。
亮司は影だから。
だからこそ光があたった瞬間に自らを消してしまったのかもしれない。
いままでも雪穂のターニングポイントには
必ず亮司がそばにいたに違いない。描写はなくても。
最後にそれを思い知らされふたりの結びつきに思いを馳せる。

雪穂には強烈な上昇志向と飽くなき「欲」への渇望が見えますが
亮司にはそれを感じない。
きっと雪穂の一言ですべてを投げうってしまうでしょう。
逆は絶対にあり得ない、それを知りながら亮司は役割を果たし続ける。
そんな二人の関係を強固に決定づけたのは
あの廃ビルでの出来事だったのでしょうか。

そこで何が起きたのか、
状況から推測するしかないわけですが
その後の二人の動向から追い続ける笹垣の推理が
的はずれではないとわかります。

主人公の心情が語られることはありません。
だからこそ何気ない会話の端々からいろいろと感じとってしまいます。

「俺の人生は、白夜の中を歩いているようなものやからな」

「昼間に歩きたい」とも亮司は言っています。
汚れ仕事を一手に引き受けている亮司は疲れているように見える。
ゴージャスに階段を上り続ける雪穂にはそれがない。
運命共同体のような二人なのにこの大きな温度差。
すべてが計算尽くで他人をコマとしか考えてないような雪穂と違い
亮司には人間的な心がまだ残っているようです。
だからミスもする。
哀れな男です。

雪穂も一点だけ計算外の感情を抱いていたようです。
篠塚一成に対して。
篠塚薬品の次期社長・康晴からプロポーズされたら
即座に了承するはず。いつもの雪穂なら。
なのにそれができなかった。
しかし一成には拒絶される。
雪穂が揺れたのはこの一カ所だけでした。

小説「すばる」に連作短編として発表されたものを
単行本では長篇に構成しなおして刊行されたそうです。
「雪穂の行く手に障害が発生→排除」
というパターンが続くので途中ちょっと食傷気味になってしまった^^;
義理の娘が反抗的態度をとっていたので
「危ないよ!」と思わず心の中で叫んだら、案の定…


 

15歳になったばかりの少女を屈服させるためにとった卑劣な手段
自分で仕掛けておきながら自分にも同じ経験があるといって
かわいそうにと少女を抱きしめる。

「太陽の下を生きたことなんかないの」
「いつも夜。」
雪穂はこう言います。
その原点はなんだったのか、忘れることができないから
今も夜を生きていかなければならないのに
目障りな人間には平気で同じような事をして
踏みにじる。

読んでいて嫌悪感でいっぱいです。
ここまできたら心がこわれたモンスターとしか言いようがない。
悪魔に襲われたことがあると雪穂は言うけれど
もうすでに自分がその「悪魔」になってるんだよ。

「あの時に摘み取っておくべき芽があったんや。
それをほったらかしにしておいたから、芽はどんどん成長してしもた。
成長して、花を咲かせてしまいよった。
しかも悪い花を」

ふたりを追い続ける刑事・笹垣はこう言います。
「相利共生」という言葉も使います。
雪穂が流したネタを亮司はうまく使い稼ぐ。
それを雪穂名義の株の売買で更にふくらませ事業資金にする。
ブティックの名前は「R&Y」きっと二人の名前から取ったのでしょう。
花は亮司がいたからこそ咲き誇った。
亮司を失った雪穂はこれからどうなるのでしょうか。

*
*
*

その時、キーホルダーについていた鈴が、ちりんと鳴った。

雪穂が望む方向に物事は動いていく。
そこには何らかの作為があるのではないかと
文章から仄めかされているように感じるが
直接的な描写は何もない。状況証拠のようなものだけ。
古いキーホルダーの鈴がちりんと鳴ったこの瞬間、
雪穂は明らかにクロに転じた。
ゾクッとしました。(東野圭吾ってなんてうまいんだろう)
カギを持っていないと偽って母親を見殺しにしたのです。

父を殺した少年と母を殺した少女
「いつも夜。でも暗くはなかった。太陽に代わるものがあったから。
太陽ほど明るくはないけれど、あたしには十分だった。
あたしはその光によって、夜を昼と思って生きてくることができたの。」

その光はもうなくなってしまった。
亮司は疲れ果てながらも最後まで使命を果たした。
他に何も信じることができない雪穂は暗闇の中に取り残されてしまいました。
大切な「光」を守ることができなかった罰です。

主人公の内面は一切語られない。
鮮やかな幕切れ。
宮部みゆき「火車」を思い出しました。

白夜行 (集英社文庫)

白夜行 (集英社文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2002/05
  • メディア: 文庫


「東野圭吾ってほんとにうまいね」と夫に言ったら
「そうなんだよ。ほんとにうまいんだよ」と何故か自慢げ。
オレはずっと前からそれをわかってたんだぞと言いたいのね。
ハイハイわかりました^^
まだ何冊かありそうだから本棚をあさってきますわ。


タグ:東野圭吾
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コメント 5

リュカ

こんばんは^^

お言葉に甘え『流星の絆』の記事にトラックバックさせて頂きました^^
『白夜行』は名作ですね。黒い花を咲かせた雪穂に私も嫌悪感を抱きました。亮司がひたすら哀れです><

そうなんです、東野さん上手いんですよぉ^^q
by リュカ (2008-06-15 19:35) 

ayaka

地道に古本屋で探しては読んでます。
『流星の絆』はまだ読んでないけれど購入済なので
読み終わったら記事を読ませていただきます。

すっかりハマって、『ガリレオ』のDVDが出たのでレンタルして
観てます・・・私っていい加減流行遅れだと思いますが。

東野さんの科学を題材にした作品に惹かれてますが
『百夜行』もいずれは読んでみたいです。
miyucoさんの読後の感想が面白くて、ますますハマりそうです。

by ayaka (2008-06-16 12:19) 

miyuco

>リュカ さん
男を破滅させるファム・ファタールを描ききってました。
見事な作品でした。
本当にうまいですよね^^
nice!とコメントありがとうございました♪
by miyuco (2008-06-16 22:35) 

miyuco

じゅぴたーさん、nice!ありがとうございました♪
by miyuco (2008-06-16 22:36) 

miyuco

>ayakaさん
ドラマの「ガリレオ」おもしろいですよね。
福山・柴咲コンビの相性が最高でした^^
映画も楽しみにしています。
私は「白夜行」の後に何を読もうかと思案中
○ックオフの棚に相談してみなくては^^;
「白夜行」はドラマ化される直前に買ったので
100円で手に入れました。
内容の濃さを考えるとものすごくトクした気分です。
nice!とコメントありがとうございました♪

by miyuco (2008-06-16 22:55) 

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