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『流星ワゴン』 重松清 [読書]

37歳・秋
「死んでもいい」と思っていた。
ある夜、不思議なワゴンに乗った。
そして ― 自分と同い歳の父と出逢った。
僕らは、友達になれるだろうか? (帯の記載から)

後悔をガソリンに走るワインレッドのオデッセイ
重松清が自分の父をイメージしているであろう
岡山弁で話す剛気な男、チュウさんが魅力的でした。
それにくらべて主人公一雄の情けないこと。
「我が家は確かに幸せだった。」
「暮らしにひびを入れるようなものはなかったはずだ。
思い当たる節をどんなに探っても
なにひとつ浮かばない。」

父と子との物語としてはよかったけれど
家族が再生に向かっているかのような結末には
釈然としない。
妻の美代子の描き方がなんだかなあ。
その点について作者があとがきで
女性がほとんど出てこないことに
致命的な「弱さ」がひそんでいるのではないかと
書いています。

ワゴンには五年前に事故死した父子が乗っていた。
夜が明けたらあなたはたいせつなどこかに着いているはず
あなたはそこに行かなければならないと
オデッセイの父子・橋本さんと健太くんは言う。
たどり着いたその場所は確かにたいせつな場所だった。

過去の岐路の時点にタイムスリップしてやり直せば
未来を変えることができるなんていう
そんな単純なストーリーのはずないよね
と思いながら読み進めます。
オデッセイの父子はちょっとわけありのようだし
一雄の家庭が壊れていった過程も最初はわからず
どんどん物語に引きこまれていきます。

主人公の一雄は疲れている。夢も希望もない。
家は壊れてしまったし、リストラで職も失った。
「死んじゃってもいいんだよなあ、べつに」
もう過去には戻るのはイヤだ
「知らないほうが、ましだ」と一雄は言う。
「被害者づらができるからですか?」
ピシリと橋本さんに言われてしまう。

「たいせつなどこか」で思いがけない人物が
声をかけてくる。
故郷の病院で起きあがることもできずに
ベッドに横たわっているはずの父親が
若き日の姿で現れた。年齢は今の自分と同じ38歳。
チュウさんと呼べと父は言う。
「わしら、ここじゃ朋輩じゃけん」

 

現在の一雄と父との関係は修正不可能なほど悪化している。
が、この年齢のチュウさんにとって、
それは未来に起こること。
屈託なく【朋輩】として息子の一雄に接します。
一雄にとってもこの時点での父には
まだそれほど複雑な感情をもっていたわけではない。
決定的に反発する直前の父親と大人になった自分が出会う。
そんなふたりのやり取りがとても心に沁みます。

広樹(一雄の息子・チュウさんにとっては孫)への
チュウさんの接し方、オデッセイに乗っていた健太くんとのやりとり
それを見ながら一雄は自分と父との関わり合いを
オーバーラップさせ、当時の父の気持ちを
「朋輩」として(でも子ども目線は捨てられずに)感じ取り、
同時に子どもだった自分の気持ちを再確認する。

チュウさんが魅力的です!
短気で乱暴
いつでも自分が正しいと威張っていた父親。
愛情表現がへたくそな愛すべきお父さん。
「どげなことでもしますけん。カズを死なせんといてつかあさい。
わしの息子なんですわ、わしの大事な息子なんですわ、カズは…」
なりふり構わずに懇願する父の姿を見て
「僕は自分の息子のために誰かを怒鳴ったり、
誰かに泣きながら訴えたことがあっただろうか」
と一雄は思う。

ガンの告知をしなくてごめんと謝る一雄に
「謝らんでええ。
子どもは親に言うてもええし、言わんでもええんよ、
子どもの楽なほうにすれば、親はのう、
それがいちばんなんよ」
ここの場面が一番泣けました。
子どものいる親であり老いた親を持つ身には
たまらないです。

病床の父は息子の様子を察していたのだと思います。
高額の「御車代」は父からの無言の気遣いだったのですね。
自分の状況は悪化するばかりなのに
子どもの変化を見逃したりしない。

ニンフォマニアの妻は家庭から解放するか
病院に連れて行ったほうがいいように思うのですが。
あれでは中一の息子が気の毒です。
絶対に受験に失敗するわけにはいかない広樹が
最悪の結果に終わったときの絶望感は胸に迫りました。
もうちょっと何とかならなかったの?

評価が高い作品だということは知っていたのですが
なかなか手が出なかった。やっと読みました。

流星ワゴン (講談社文庫)

流星ワゴン (講談社文庫)

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/02
  • メディア: 文庫


タグ:重松清
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