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『時生』 東野圭吾 [読書]

父と息子の時を駆ける物語。
重松清「流星ワゴン」とモチーフが似ているけれど
ずいぶん印象が違う。
「流星ワゴン」は重層的ですが「時生」は軽やかでストレート。
テイストは違うのにどちらの物語もジーンときます。
父と息子のストーリーには
どうしようもなく心を揺さぶられてしまう。

不治の病を患う息子に最期のときが訪れつつある
宮本拓実は妻に二十年以上前に出会った少年との
想い出を語りはじめる。
どうしようもない若者だった拓実は、
「トキオ」と名乗る少年と共に、
謎を残して消えた恋人・千鶴の行方を追った―

「生まれてきてよかった?」
夫婦は授かった命の火を消すことが出来なかった。
長く生きられない可能性が高いと知っていながらも。
短い生を宿命づけられて生まれてきた息子は
生まれてきてよかったと思ったことがあったのか?

その問いへの答えがこの本一冊に詰まっています。

拓実と息子がどんなふうに過ごしてきたのか
物語にさりげなく織り込まれていて
それを感じるたびに温かい気持ちになります。
「貧者のピザ」の話を父から聞いていたのね。
読み返すと序章に「パン工場のそばの公園」が出てくる。
ボールを投げるときの癖を知っているのは
きっと二人でキャッチボールをしていたからでしょう。

1979年
23歳の宮本拓実はどうしようもないヤツだった。
自分の生い立ちを言い訳にしていい加減に生きている。
ダメダメなヤツで読んでいていらいらする。
しかし作者の東野圭吾はこのダメな男を
いたく気に入っているらしい。
書いていて楽しかったそうです。

浅草の花やしきで
親しげに拓実に声をかけてきたトキオと名乗る少年。
トキオは拓実に会ってがっかりしていた。
生い立ちに事情があるのはトキオも同じ
しかし拓実は健康な体を持っている。
被害者意識に逃げ込んで
自分の人生に向かい合おうとしないなんて。
トキオでなくてもがっかりする。



 

いつかでっかいことをする、一発当てる
口癖のようにそんなことを言いながら何もしない。
でもなぜか憎めない。なぜなのか。
トキオはこんなふうに言います。

「細々したところではせこいけど、
肝心なところでは曲がったことをしない。
それが拓実さんの性格なんだ。」

本当の苦労を知らない子どもっぽいヤツと
竹美に言われ拓実は逆上しますが
竹美こそ壮絶な人生を歩んできた女性です。

「そら、誰でも恵まれた家庭に生まれたいけど、
自分では、親を選ばれへん。
配られたカードで精一杯勝負するしかないやろ」

「あんたに配られたカードは、
そう悪い手やないと思うけどな」

そう、拓実は自分で思っているほど
悲劇の主人公ではない。
逃げ込む先があるとラクだから目を背けているだけ。

そんな彼が変わっていく。
消えた恋人・千鶴の行方を追いかける過程で
過去を見つめ直し自分と向きあう。
そこにはトキオの力添えがあった。

タイムパラドックスが起こるだろうとは思うけど
それはちょっとどこかに置いておきましょう^^;
眠り続ける息子に拓実が声をかける。
その声が届いたかどうかは読者がよく知っている。

時生 (講談社文庫)

時生 (講談社文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/08/12
  • メディア: 文庫


タグ:東野圭吾
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コメント 4

薔薇少女

こんばんは、本は殆ど読まないので
コメントはなかなか書けずにいますが、
いつも丁寧で、綺麗な文章で、
きっと素敵な方だと思って読ませて
もらっています。

by 薔薇少女 (2008-08-13 21:04) 

miyuco

薔薇少女さん、こんばんは。
お褒めいただいてありがとうございます。
本を読んだ感想を書きとめて
データバンクのようにしたいと思って
ブログを始めたのですが
気の向くままにいろいろと書き散らかして
とりとめのないものになってしまっています^^;
コメントはいただかなくても読んでくださっただけで
光栄です[ラブラブハート]

by miyuco (2008-08-13 22:34) 

miyuco

RONRONさん、nice!ありがとうございました。
by miyuco (2008-08-19 21:14) 

miyuco

リュカさん、nice!ありがとうございました。
by miyuco (2008-08-19 21:14) 

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