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『おそろし 三島屋変調百物語事始』 宮部みゆき [読書]

おもしろかった。そして恐ろしかった。
宮部さんには連作短編集という体裁が合っているのかなと思う。
最近の長編は書き込みすぎて冗長に感じることがままあるので。

当初は『あやし』の続編として書き始めたそうですが
「三島屋」という舞台ができたことで
連作短編集という体裁になったということです。
『あやし』は座敷牢で座して朽ちていく姿が脳裏にこびりつき
あまりの恐ろしさに読むのを断念した軟弱なわたしですが
この本はなんとか読了いたしました。

人の心の残虐さ身勝手さが悲劇を引き起こす。
何が原因になったのか人は探り当てようとする。
自分に少しでも咎がある場合はなおさらのこと。
「どうしようもなかったんでございますよ」
という言葉で慰撫されたくないおちかの気持ちもわかる。
しかし逃れようもなく人知の及ばない何かに導かれるように
破滅に突き進むこともあるのだということを
宮部みゆきはこの物語で書いています。

そして浄土もあるのだということも書きこまれています。
三島屋の叔父夫婦のおちかを案じる細やかな心遣い。
「魔鏡」の舞台となった石倉屋の生き残った娘
闕所になったようなお店の独りぼっちの娘を引き取り
普通の暮らしをしていいんだと接してくれる人たち。
「凶宅」の安藤坂の屋敷からただ一人助け出されたおたかを
引き取る越後屋。
温かく手を差し伸べる人々も確かに存在する。

人は自分の心の重荷を軽くすることに腐心する
エゴイストである一面をどうしようもなく持っている。
重荷に直接関わる人物のことは忘れないのに
そうではない人物は心の表に浮かんでこなくなる。
苦しみ無念のうちにこの世を去ったのは同じなのに。
作者は醜悪な部分を容赦なく指摘する。

「ふたつの場所をつなぐ道筋で、お客を相手にしている」
という男がおちかに突きつけた言葉は
厳しくも的を射ています。
そしておちかはそれにすでに気づいている。

おちかが訪ねてくる人の話を聞いている“黒白の間”
人の心は黒白どちらかであると断じることはできない
強く美しく、同時に弱く醜いものであると
この本は語りかけてきます。

作者の目配りが隅々まで行き届いたとてもいい本でした。
宮部みゆき、恐るべしっ!

ある事件を境に心を閉ざした17歳のおちかは、
神田三島町の叔父夫婦に預けられた。
おちかを案じた叔父は、人々から「変わり百物語」を聞くよう言い付ける。
彼らの不思議な話は、おちかの心を少しずつ、溶かし始めていく・・・。
おちかを襲った事件とは? 連作長編時代小説。

おちかを引き取った三島屋の主人・伊兵衛と
お民の夫婦は人情の機微に通じて温かい人柄です。
まっとうに生きている人たちがしっかりと描かれています。
「魔鏡」でのお店を案じた末に濡れ衣を着せられ
命を落とした古参の奉公人・宗介
何も非がないのに凶事に巻き込まれてしまったお吉
彼らのことは誰も気にかけないのかとお民は嘆く。
「哀れで悲しく思えますよ」
こういう人がそばにいてくれるのだから
それだけでもおちかは幸運です。

ダ・ヴィンチに宮部みゆきのインタビューが載っていました。

生家を出て三島屋に奉公へ来た“おちか”という娘が、
主人の伊兵衛のはからいで、
人々から怪異を聞くことになる。
おちかは百物語を聞くことで、
若い時に自分の身にに起こった悲しい出来事を
だんだん、少しづつ葬っていくんですね。
これから先も彼女は「変調百物語」を続けながら、
恋愛をし、結婚をし、子供を持ち、
だんだん年を取っていきます。
このシリーズでは、百物語を積み重ねるだけでなく
おちかの一生も書いていきたいんです。

松太郎に「ごめんね」と言いながら書いていたそうです。
子どもを不幸にしてしまってかわいそうだった。
しかし江戸は子どもを不幸にする時代であったという事を
書いておきたいとインタビューにはありました。

松太郎は瀕死の状態であるところを助けられ
見ず知らずのお店に引き取られた幸運な子どもだった。
しかし恩義を逆手にとられるような形で
使われる立場に絡め取られ最後には人を殺めてしまう。
不幸だったのか幸福だったのか。
きっと松太郎の物語もこれから語られることでしょう。
そして良助の物語も。

11月から読売新聞で続編が連載されるそうです。

おそろし  三島屋変調百物語事始

おそろし 三島屋変調百物語事始

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/07/30
  • メディア: 単行本


早い時期にリクエストをかけたので
思いがけず発売してすぐに手元に届きました。
ちょうどお盆休みだった連れは
私が寝ている間に読み続け読了しました。
いつもは読むのが遅いのに^^;
宮部みゆきの文章は読みやすいのだそうです。


タグ:宮部みゆき
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コメント 3

薔薇少女

>人の心は黒白どちらかであると断じることはできない
強く美しく、同時に弱く醜いものであると
この本は語りかけてきます。
↑の言葉 心に留まりました!

by 薔薇少女 (2008-08-19 16:44) 

miyuco

リュカさん、こちらにもnice!ありがとうございます。
by miyuco (2008-08-19 21:19) 

miyuco

>薔薇少女さん
どちらかはっきりしてくれたら
ある意味ラクなのかもしれないですよね。
nice!とコメントありがとうございます♪
by miyuco (2008-08-19 21:28) 

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