SSブログ

『ファミリーポートレイト』 桜庭一樹 [読書]

前作「私の男」は父と娘の物語でした。
「ファミリーポートレイト」は
母と娘の濃密な繋がりから始まる物語。

主人公が五歳のときから始まり、
地獄巡りの三十年間が瞬く間に過ぎて、
三十四歳のある日、ぷつっと幕を閉じる。
精神的に未熟な母親から「わたしの神」として
間違った育てられ方をした娘が、
生きるために“自尊心”なる青い鳥を探し続けて
無残に歳を取っていく物語だ。
<講談社BOOK倶楽部>
最新作「ファミリーポートレートについて・桜庭一樹

ママの名前は、マコ。
マコの娘は、コマコ。
すなわち、それがあたし。
あなたの人生の脇役にふさわしい命名方。

母に尊厳を奪われながらも守り神になろうとする娘
ふたりのロードムービーのような第一部
その母を失ってからの日々を綴った第二部

「目の前でママが湖に消えたときに、
これから先はどれだけ生きていても余生だと悟った。
そうしたらほんとうにそのとおりだった。
喪失の記憶から逃れ、闘い、飲み下しては吐瀉する日々。」427p

そんな日々に終わりは来るのか、
と思いながら読んでいく。

「私の男」の主人公・腐野花は
別に死んじゃってもいいやと思っていた。
コマコもそう思っていた、が、
もがきながら生きていこうとする。
「生き抜くこと」415p
いつしかそれが人生の目的になる。
死の匂いに満ちていた前作とは決定的に違う。

社会の一員となれ、まともな大人になるべきだと説く恋人
「あたしは真田の言葉の圧倒的正しさに、笑ってしまう。」

物語が終わりに近づくにつれ駒子は
ゆるやかに「まともな大人」に歩み寄る。
そこまでをぎりぎりと爪をたてるように描いた作者に
感嘆します。
コマコはサバイバー、生き抜く。
あのラストまでよく持っていったものです。

「私の男」は鋭利なナイフのようだった。
削ぎ落とされた美しさに魅了された。
「ファミリーポートレイト」はその先まで描いているので
美しくはない。
「再生」がきれいに成し遂げられるはずがない。
痛ましい主人公を死なせない筆力には感服しました。
(ポルノスター・霞が身代わりのように死んでいくけれど)

作者・桜庭一樹のリアルなモノローグが
作家としての駒子に
あまりにも多くダイレクトに投影されすぎているのでは。
それが物語の邪魔をしているように感じる。

コーエー(公営住宅)から逃げ出したとき
若く美しい母は25歳、娘は5歳。
母と娘がたどり着いたいくつもの場所。
山奥にある老人ばかりの城塞都市。
海のそばの温泉街。
石ころだらけの荒れ野の真ん中にある
豚と若いもんしかいない町。
古くてこじんまりした落ち着いた町。
<隠遁者>として暮らすフランス式庭園。
そこにあるおおきな湖に母が飛び込み
第一部「旅」は終わる。
コマコは14歳になっていた。

第二部「セルフポートレイト」
「ずっと、蔑まれて育ってきた。
なにがあっても、いちど根付いた家畜の心は
けっしてからだから離れなかった。」480p

駒子は観客に物語を語る。
すなわち「書くこと」で生きのびる。

「嘘の中に、ほんとうの言葉、苦しみや悲鳴や怒号を隠して、
雪の玉の中に狂気となる石を隠して投げるようにして、
放ってるんだ。」275p

「書くことはパワー・トリップ。
惨めなあたしに生きることの尊厳を
取りもどさせてくれる。」500p

ママが苦しいときはそれを引き取って、楽にしてあげた。
作家は物語に自分の苦しみを引き取ってもらう。
ラスト近く、駒子は自分のつくったものが
誰かの孤独な夜に滑り込んでいるかもしれないと信じ始める。

そして生きていく。

以下、覚え書きです。



 

第一部は第二部の駒子が酒場で語る物語のようです。
最初にたどり着いた山奥の村。
コマコは生まれて初めて恋人どうしなるものを見る。
文字を習い本を読みはじめる。
幻の双頭の弟を見る。
そしてその村は突然雪崩の下に消えてしまう。
マコはまだまだ若く美しい。
このパート「原初の記憶」が好きです。

居場所を変えるごとに母は若さを失い
娘は成長していく。
娘は母の絶対的な支配下に居続けることはできない。
ほころびが生じ、ふたりの関係はすこぉしづつ変わっていく。
そして突然母を失う。
ママのいない世界にコマコは取り残される。
捨てられた子どものように。

彷徨う駒子の周りの多彩な人物
学校で寝起きしているときに出会う男子生徒。
酒場で働きそこを根城にしているときには
編集者、作家。
書くことを捨てて郊外のカフェで働いているときに
出会った高校教師「真田」とは恋人同士となる。

「奪われる無力な者から、この手で奪う者へ」
自分が変化していることに気づいてしまったら
今いる場所にいることはできない。
たどり着いたのは金魚屋兼カフェ「赤い魚」
カフェで終日働き屋根裏部屋で寝起きする。
自分について考えることなく
市井の人びとというものを飽きずに観察し
郊外の街に埋没していった。

金魚屋の屋根裏部屋で発見され連れ戻され
再びバーの観客の前で語り、書き始めると
「物語を必要としてない人」真田との関係は
壊れていく。

しかし普通の暮らしの大切さを説く真田を
駒子は好きなのだ。
「母親と暮らした日々の幸福から
立ち直らなければならない」
「あなたはなんだか変わっているけど、
でも、常に、誰かと似てる。」

「あたしは、世界は確かにあたしの苦しみだけでは
できていないけれど、
あたしたちの苦しみでできているかもしれない、と思う。」

ひとりぼっちの誰かの夜に滑りこむことができると信じ始める。
「生きるぞ」

編集者・是枝の妻が生んだ赤子を見て泣き崩れる。
そしてマコが出ている映画を見つける駒子。
マコのお腹にはコマコがいる。
それを見ている駒子のお腹には駒子の子どもが。
物語は繋がっていく。

「夜に滑りこみたいんだ!」
これはサンボマスター・山口隆の言葉だそうです。
素敵です。
痩せこけた表現者はパティ・スミスのイメージ。

<講談社BOOK倶楽部> 立ち読みできます。

ファミリーポートレイト

ファミリーポートレイト

  • 作者: 桜庭 一樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/11/21
  • メディア: 単行本


タグ:桜庭一樹
nice!(1)  コメント(2)  トラックバック(2) 
共通テーマ:

nice! 1

コメント 2

薔薇少女

相変わらずPCの不調で悩みの日々が続いています!
別館も時々覗いて拍手しています!
文章力の素晴らしさに感動します☆☆☆
by 薔薇少女 (2009-01-18 23:54) 

miyuco

>薔薇少女さん
nice!とコメントありがとうございます♪
そうだ、別館書かなくちゃ^^;
by miyuco (2009-01-19 16:07) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 2