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『朗読者』 ベルンハルト・シュリンク [読書・海外]

ケイト・ウィンスレットがアカデミー主演女優賞を受賞しました。
作品は「愛を読むひと(THE READER)」
「朗読者」というタイトルの原作が
出版当時話題になっていたことを思い出し
遅ればせながら読んでみました。

年上の女性との情事が主題となる作品は苦手です。
残酷な結末が必ず用意されていて
センチメンタルなものが多いような気がする。
しかしこの本については勘違いしてました。
それはプロローグにすぎない。
その後の出来事がさまざまな事を問いかけてくる。
読み終わったあとに胸がざわつきました。

学校の帰りに気分が悪くなった15歳のミヒャエルは、
21歳年上の女性ハンナに介抱してもらい、
それがきっかけで恋に落ちる。
そして彼女の求めに応じて本を朗読して聞かせるようになる。
ところがある日、彼女は突然、失踪してしまう。
数年後、法学を専攻する学生として傍聴した裁判で
被告席のハンナと再会する。
それはナチス時代の戦争犯罪を裁く法廷だった。

一読した直後、私はミヒャエルに腹を立てていた。
「気楽でエゴイスティックな関係」
それだけで終わらせようとした中途半端な善意。

しかし彼が関わったことで
ハンナは読み書きできるようになった。
書物を読むことで自分がどのような罪で裁かれたのか
あの時代に何が起きていたのか
はっきりと理解できたのでしょう。
遺書に書かれたミヒャエルへの伝言で
それがわかります。

子どもが書いたような文字のハンナから手紙
ミヒャエル同様、私も歓喜に満たされました。
ハンナも嬉しかったでしょうね。

ミヒャエルを責めるばかりではいけない。
目を背けて若き日の甘美な思い出に閉じこめることも
できたのだから。
しかし彼がハンナに関わるのは贖罪のためでもある。
彼女が隠し通していたことを明らかにすれば
量刑を軽くできたかもしれないとわかっていながら
ミヒャエルは行動に移さなかった。

この時、彼は自分の父に助言を求めた。
父は哲学者として息子の問いに答える。
この言葉は深く私の胸に刻まれました。

…感想が長文になるような気がする…
以下、つらつらとまとまりなく書いてます。

「わたしは大人たちに対しても、
他人がよいと思うことを自分自身がよいと思うことより
上位に置くべき理由はまったく認めないね」
「もし他人の忠告のおかげで将来幸福になるとしても?」
父は首を左右に振った。
「わたしたちは幸福について話しているんじゃなくて、
自由と尊厳の話をしているんだよ。」

「ある人にとって何がいいことかわかっていて、
その人がそのことに目を開こうとしないなら、
目を開かせる努力をする必要はあるよ。
最後の決断はその人に任せるとしても、
その人と話さなくちゃいけないよ。
その人の知らないところで他の人と話すんじゃなくて、
その人自身とね。」

最初に朗読テープを送ったのは彼女の服役後八年目だった。
このときミヒャエルは、ハンナと話すことを始めたのでしょうか。

「ぼくはハンナの犯罪を理解すると同時に裁きたいと思った。
しかし、その犯罪は恐ろしすぎた。」
「彼女を理解しなければ、再び裏切ることになるのだった。
その作業はぼくにとって終わりのないものだった。
ぼくは両方を自分に課そうとした。理解と裁きを。
でも両方ともうまくいかなかった。」

うまくいかなくて、千々に乱れるミヒャエルの心情が
長く私のなかに留まってあれこれと考えてしまう。

彼女が隠していたことにミヒャエルだけは気づいた。
裏をかえせばその秘密に気づくほど
彼女に深く関わった人間はミヒャエルだけだったのか。

読み書きできないということがハンナの人生を
大きく左右していた。
(だから勉強しなさいとあれほど怒ったのですね)
露呈することから逃れるために
何かを捨てて違う道に進んでいくことの繰り返し。

しかし裁判においてはそうではなかった。
ハンナは裁きを受けることに同意していた。
有利になるために文盲であることを利用しようとはしなかった。
自分のための真実と正義のために闘った。

ハンナの選んだ最期は悲しいけれど
そうせざるを得なかったのかなとも思う。

ミヒャエルの手紙を心待ちにするハンナの姿は
切ないです。

*
*
*

「広い背中とたくましい腕」
ハンナのイメージはニコール・キッドマンより
ケイト・ウィンスレットのほうが近いです。
紆余曲折の末のハンナ役がアカデミー賞に
つながったのはドラマチックでした。

読み書きできないことを知られたくないというハンナの気持ちは
それほど抵抗なく受け入れることができた。
ルース・レンデル「ロウフィールド館の惨劇」という
本を読んだことがあるので。
文盲の露呈を恐れるがゆえに
惨劇の幕が切って落とされるおそろしい本でした。

「ときおりぼくは、ナチズムの過去との対決というのは
学生運動のほんとうの理由というよりも、
むしろ世代間の葛藤の表現であって、
それこそが学生運動の駆動力になっていたのだと
思うことがある。」

1960年代半ばの日本でも同様のことが起こっていました。
(知識としてしか知らないのですが)


朗読者 (新潮文庫)

朗読者 (新潮文庫)

  • 作者: ベルンハルト シュリンク
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2003/05
  • メディア: 文庫


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コメント 4

miron

この小説は、シンプルなのだけど、
一筋なわでいかない色々なテーマが絡んでいるので、
感想を書くのが難しい!(ような気がする)
感想を拝見し、(世代間の葛藤の表現 への着目等)
言葉にしにくい細かい所を、
上手く拾っているなぁと感心しました。

by miron (2009-03-01 18:03) 

miyuco

mironさん、お褒めいただいて嬉しいです^^
本当に感想を書くのが難しい作品でした
というか、私の文章は感想になってるのか?
という根本的な疑問が…(涙)
映画は賛否両論あるようですが
観てがっかりしないといいなと思ってます。
nice!とコメントありがとうございました!

by miyuco (2009-03-02 18:05) 

薔薇少女

「愛を読むひと(THE READER)」、映画見たいなと思いました!


by 薔薇少女 (2009-03-12 14:41) 

miyuco

>薔薇少女さん
見たいですよね!
nice!とコメントありがとうございました♪
by miyuco (2009-03-12 18:47) 

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