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『英雄の書』 宮部みゆき [読書]

宮部みゆきの類い希なる筆力で、
一気に読まされてしまいます。
が、物語が動きはじめるまでが…長い…長いです。
異世界のシステムが丁寧に語られる。
11歳の女の子に分かるように説明されるけれど
ポーンと投げ込まれた世界で
身をもって理解するパターン(ブレイブストーリーのように)
にはできなかったのかな。
そうするには難しすぎる設定だったのかな。

人は皆、生きることで物語を綴る。

「我らは皆、等しく罪人なのです。
罪を生み出しながら生きています。
生きるためには、ほかに術がないのだから」
下巻179P

兄・大樹を取り戻すことが当初の目的でした。
大樹が持っていた「怒り」がどのようなものだったのか
学校で身近にいた生徒の口から明らかになる。
だが、本人は最後まで何も語らない。
彼の「怒り」というか「苦しみ」がもっと強く伝わってきたら
読後感は違ったものになったと思う。

「黄衣の王」に成り果てていると思われていた大樹に
作者は救いの手を差し伸べます。
こういうところが大好きです。

でも、カタルシスはいまいち。
もう少し形を整えれば十分たどり着ける山場に
あと一歩で手が届かないような
歯がゆい読後感が残りました。

ディミトリ(アッシュ)の内面には乳兄弟キリクへの
様々な感情が渦巻いていて
ユーリの近くにいるとそれが喚起されるであろうと
思うのですが、語られていない。
私はそれが読みたいです。

ラストのなりゆきを読むと続編が書かれることを
期待してしまいます^^
ディミトリ主役のスピンオフ希望!

英雄の書特設サイト
http://mainichi.jp/enta/book/eiyu/
用語辞典があります。

宮部みゆきインタビュー
http://books.rakuten.co.jp/RBOOKS/pickup/interview/miyabe_m/
帯の文句は連載中から自分で決めていたそうです。

RPG風に言えばパーティーは4人
4人が揃って冒険に出かけるのは下巻から。
上巻で友理子は「印を戴く者(オルキャスト)」ユーリとなり
<無名の地>に赴く。そこでソラが仲間になる。
<現実世界>に戻り、アジュが合流。
下巻で<ヘイトランド>の住人アッシュが登場
4人でヒロキを探す旅に出る。
上巻から下巻へのヒキが秀逸です。
王道ですね^^


そこは禁忌の地。
「あれ」が獄を破った。戦いが始まる…。
「英雄」に取り憑かれた兄を救うため、
友理子は物語の世界へと旅立った。
ふたりの幼子と、ひとりの僧侶と、
ひとりの魂なき流浪者の織りなす、忌まわしき命の物語。

以下、とりとめない覚え書きです。
未読の方はご注意を

すべての物語が生まれ、
すべての物語が回収される場所
<無名の地>
「英雄」が封印されている

“英雄”とはもっとも美しく尊い物語だが
そこには同じくらい濃い影も生まれる。
善なる英雄の影・邪悪なる部分は「黄衣の王」と呼ばれる。
「英雄」と「黄衣の王」はひとつの楯の裏と表
“英雄”という物語は双方を併せ持つ。


「写本」(「英雄」について語られるさまざまな書物)
に潜む「英雄」とりわけ「黄衣の王」が必要とするのは
触れた者が持つ「怒り」
「怒り」を触媒に取り憑き支配する。
大樹は取り憑かれ「器」となった。
黄衣の王に封印を破るための力を与える
最後の一人の「器」
封印を破り破獄した黄衣の王は
最後の器の身体を借りて降臨する。
大樹は今や「黄衣の王」そのものに成り果てた。


大樹が触れた本は「エルムの書」

「エルムの書」は「ヘイトランド年代記」という
架空の物語で生まれたもの。

紡ぐ者たちは己の書きたいだけの話を書いたら、
そこで筆をおく。
だが彼らがこしらえた“領域(リージョン)”はそこにある。
存在し続けるんだ。
そのなかの生き物たちは、
たとえ創作物であろうとも生き続ける。

RPGにはこういう設定がよくあります。
現実世界に生きる者と創作物から抜け出てきた者が
同じフィールドに立ち一つの目的のために連携する。
ゲームではスッと入ることができるのに
活字媒体で表現するのは難しいのだなと
実感しました。

「立派だった」
兄妹に向けてのアッシュの言葉に
込められたものは大きい。

<最後の器>のなかに、己がしでかしたことへの
深い後悔を生み出させるとき
<なり損ないの無名僧>が生まれる。
ユーリの目的は兄を連れ戻すことだったのに
知らず知らずのうちに正反対の使命をおびていた。
<悪しき種子>を刈り取ること。
己に与えられた真の使命がどんなものか
知っていたらユーリは拒絶したはず。
しかし結果的にそれは兄にとっての救いになったのでしょう。

「時の矢は真っ直ぐ進むだけで、
けっして後戻りすることはない。
起きてしまった出来事は、誰にも翻すことはできない。
取り返しはつかないんだ、ユーリ」下巻230P

英雄の書 上

英雄の書 下 
 

大樹を追いつめた教師が“輪(サークル)”のなかで
裁かれますように。


タグ:宮部みゆき
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BlogPetのジャック

miyucoが登場したの?
by BlogPetのジャック (2009-03-11 16:52) 

miyuco

残念ながら登場できませんでした【T__T】
by miyuco (2009-03-11 18:35) 

miyuco

ICE★DOLLさん、nice!ありがとうございます♪
by miyuco (2009-03-14 13:23) 

miyuco

薔薇少女さん、こちらにもnice!ありがとうございます♪
by miyuco (2009-03-22 17:28) 

sknys

miyucoさん、こんばんは。
『英雄の書』は『ブレイブ・ストーリー』や『ICO』よりも面白い!
ファンタジー作品なのに、勧善懲悪の物語になっていないし、
オルキャスト・ユーリの兄(森崎大樹)も還って来ない。

「黄衣の王」を退治してスカッとしたい人はRPGでもやってろ!
‥‥っていうことでしょう^^;
小説はアニメやゲームよりも複雑怪奇で奥深い(罪深い?)
物語であることを実証している。

『模倣犯』で暴走した作者(紡ぐ者・咎人)の
「鎮魂の書」という感じもありますね。
続編もありそうなので、愉しみです。
美しく成長した「女狼」ユーリの活躍を読みたいなぁ^^
by sknys (2010-09-22 21:00) 

miyuco

sknysさん、コメントありがとうございます!
この本、下巻のスピード感がたまりませんでした。

兄を取り戻すという目的は果たせなかったけれど
兄を救うことができたという結末がとてもよかった。

続編、あるといいなあ。
宮部さんの作品は人物描写が行き届いているので
読み終わって登場人物にお別れするのがつらくなります。
私はアッシュにもう一度お会いしたいです^^

by miyuco (2010-09-24 17:32) 

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