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『告白』 湊かなえ [読書]

本屋大賞受賞作品ですが
私は好きになれませんでした。
書店員さんのようにオススメする気にはなりません。

我が子を亡くした女性教師が、終業式後のホームルームで
犯人である少年を指し示す。
「愛美は事故で死んだのではなく、このクラスの生徒に殺された」
「女性教師」「級友」「犯人」「犯人の家族」が、
モノローグ形式で事件について語っていく。

第29回小説推理新人賞受賞作「聖職者」を第一章とし
その後、第六章までを加筆し長編として刊行したという事です。

簡潔に言うと復讐譚
復讐は果たされるが爽快感はない。
(そうきたかっ!という驚きはあります)
登場人物はひとりも好きになれない。

「〝目には目を・歯には歯を〟で
〝目には目と歯を〟じゃないだろう?」
(三原順・はみだしっ子より)
愛娘を殺されたことがすべての免罪符になるわけではない
と思う。しかし同時に
馬鹿な子供が自己顕示欲のために我が子を殺し
平然としているのを見たら暴走してもしかたないのではないか、
と母である自分と照らし合わせて思ってしまう部分もある。
居心地悪い読後感です。

第一章「聖職者」
終業式、女性教師がホームルームで生徒に語りかける。
「私は今月いっぱいで教員を退職します。」
「最後にみんなに聞いてもらいたい話があります。」
我が子を亡くした悲しみ、自分を責める気持ち
しかし娘は事故死ではなかった。

セリフのみで成り立っているこの第一章の完成度は
非常に高い。見事です。ぐいぐいと引きこまれる。
教師の怒りがひしひしと伝わってきます。

「私は二人に、命の重さ、大切さを知ってほしい。
それを知った上で、自分の犯した罪の重さを知り、
それを背負って生きてほしい。」

心にもないきれいごと
静かな口調に怒りが満ちているのがわかる。
教師は今すぐにでも犯人たちを殺してやりたいと思っている。
それをしないのは簡単に死なせたくないから。
底知れない憎悪を感じてゾクッとします。
この第一章が独立した短編として新人賞を獲ったことが
納得できる出来映えです。

この教師の犯人への裁きは当然波紋を広げ
それがどういうものか語り手を変えて明らかになる。
しかし、全編モノローグで語られると
どこかうさんくさい
どんどん現実離れしていくように感じます。

「人を裁くには第三者を入れるべき」
というのが素直な感想です。

「やはり、どんな残忍な犯罪者に対しても、
裁判は必要なのではないか、と思うのです。
それは決して、犯罪者のためではありません。
裁判は、世の中の凡人を勘違いさせ、
暴走させるのをくい止めるために必要だと思うのです。」

第二章での美月での語りにあるこの文章が
心に残りました。
「凡人」には被害者の周りにいる人間も入ります。
暴走する女性教師のような。
憎しみは消えることがない。
それでも折り合いをつけなければならない。
ならば司法の手を借りる事がひとつの手段になり
歯止めになるのではないかな。

女性教師は少年二人がクラスメイトに
なぶり殺しのような目にあわされるのも見越して
罠を仕掛けたのでしょうから
暴走をくい止めようなんて気はなかった。
それのとばっちりを受ける生徒がいようと
知った事じゃないという心境だったのでしょう。

この本の登場人物は誰もが半径数メートルの事しか
考えられない。考えようとしない。
自分のした事がどんな結果を引き起こすのか
想像することができないようです。
女性教師も結局はその一人。
憎悪は巡りめぐる。
直樹の姉の憎悪はどこに向かう?
爆破に巻き込まれた人間の憎悪は?

以下、未読の方はご注意を

モノローグは疑い深く読む。
本当に真実を語っているのか。
重要なことを語らず
巧妙にミスリードしているのではないか。

【教師】牛乳に血液を入れた
【美月】血液反応はなかった

どちらかが嘘を言っている?
と疑っていたら世直しやんちゃ先生の
(ちょっと現実離れした)介入があったと後でわかる。
血液をこっそり採取するのも?だけど。


ラスト、爆弾を大学に設置し建物は半壊したと
教師は言うけれど私はそれすらも、疑ってしまう。
本当にそこまでしたの?
やりそうなことだけど、
先生、あまりに仕事が早すぎるってば^^;

爆破に巻き込まれた人間がいても
しようがないと女性教師は言いそうです。
「憎しみを憎しみで返してはいけない」
という桜宮の言葉も耳に入らなかったのだから。
「親であるよりも教師であろうとした彼を許せない」
こんな風にしか考えられなくなっている彼女は
哀れなモンスターです。


教師と母親との会話を聞かせれば
渡部修哉への復讐はもっと完璧だったのに。
それがどんな言葉でも
彼のなかで理想化されすぎている母親像を
壊すには十分だと思う。

などと考える自分は冷静な読者ではなく
幼い我が子を馬鹿者に殺された
憎しみに震える母親を我が身に置き換えて同調する
「母親カテゴリー」の部分を全開にした
冷静になれない読者であり、ノワールな思いつきです^^;

告白

告白

  • 作者: 湊 かなえ
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2008/08/05
  • メディア: 単行本

寄せ書きの暗号、よく考えたものですね。

【追記】
映画、観ました。素晴らしかった。
感想はこちらです。
http://miyuco.blog.so-net.ne.jp/2010-06-16


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薔薇少女

ご無沙汰してますのにnice押し逃げでゴメンナサイ!
by 薔薇少女 (2009-04-22 22:02) 

miyuco

ミナモちゃん、nice!ありがとう^^
by miyuco (2009-04-24 23:31) 

miyuco

薔薇少女さん、nice!とコメントありがとうございます♪
こちらこそご無沙汰してしまってゴメンナサイ!
by miyuco (2009-04-24 23:32) 

松matsu

まだそれほど注目されていない時に、同じ大学出身の人ということで読んだのがきっかけです。2作目の『少女』はまた違ったテイストで面白かったです。
by 松matsu (2009-04-29 19:18) 

miyuco

おおっ、松matsu先生の後輩でしたか!
読ませるテクニックはレベルが高いと思いました。
すらすらと読めます。短編を読んでみたいです。
nice!とコメントありがとうございます♪
by miyuco (2009-04-30 19:50) 

びっけ

ようやく図書館から通知が来て読みました。(^^;
昨今の自己中な犯罪者の言い分を聞くにつけ、イライラしていましたので、この女教師の(そこまでやるか!)という復讐劇には ちょっぴり感嘆しました。
でも、miyuco さんと同じ・・・やっぱり後味が悪いですね。
娘を殺された女教師も母ならば
殺人を犯した少年二人にもそれぞれの母がいて、
やはり、親子関係(母子関係)というのは、人間の業の根源に関わるものなのかなぁ・・・と考えさせられてしまいました。
昔の子育ては、母だけでなく、祖父母やら叔母やら近所のおばさん、おじさんやら・・・多くの手がかかっていた分、歪みが生じにくかったのかなぁ・・・と思ったりもしました。
寄せ書きの暗号、あの母の日記を読むまで気がつきませんでした。(^^;
by びっけ (2009-09-07 15:26) 

miyuco

>びっけさん
最愛の子どもを殺害された母親の復讐劇に
これくらいやったって構わないと共感する部分と
それにしてもクレイジーだわと反発する部分で
読みながら心の中がささくれる感じでした。
後味、悪すぎますよね^^;
悪意に満ちた寄せ書き、気持ち悪いです…
nice!とコメントありがとうございました。



by miyuco (2009-09-08 21:33) 

miyuco

junp_72さん、nice!ありがとうございました!


by miyuco (2010-07-28 20:03) 

miyuco

うよんげさん、nice!ありがとうございました!
by miyuco (2010-07-28 20:06) 

エリザベス

下らない本でした。どうして こんな本に人気が出たのか解らない。
「告白」じゃなく「復讐」だろ。
お金を返して欲しい。
又 映画化されるのも不思議???
見たく無い。
映画化しやすく ストーリーも場面も軽くて簡単だからだろうね。
作者は何を訴えたかったのだろうね?
本当に下らない本でした。
その辺にある本の方がズッとマシでした。
以後 本を買うときは気をつけて買います。
こんな本に騙されない様。
by エリザベス (2011-01-27 17:29) 

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