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『シアター!』 有川浩 [読書]

解散の危機が迫る小劇団「シアターフラッグ」
――人気はあるのにお金がない!?
主宰の春川巧は、兄の司に借金をして劇団の未来を繋ぐ。
新メンバーも加え、新生「シアターフラッグ」を旗揚げるが、
果たして未来は……!?

メディアワークス文庫の創刊ラインナップの目玉となる
有川浩の書き下ろし新作。
本屋さんでもあまり目に付かない場所に置いてあって
私のようにライトなファンには見落としがちなポジションの本でした。
気持ちよく読めて楽しい作品なので
もっと陽の当たる場所にでてきてほしいです。

ベタ甘ラブストーリー度数はかなり低め
でもしっかりフラグはたってる…かな?
今回はしっかり者の兄ちゃんと
頼りないけれどなんだか憎めない弟くんがメインの
劇団のお話。

「このままじゃ俺の劇団が潰れちゃうよぅーーー!」
と借金の肩代わりを兄に頼むところから物語は始まる。
わかった金は立て替えるから劇団畳めという兄・司に
弟・巧は「いやだ」と拒絶する。もっとちゃんと頑張りたい。
それには理由があった。

全ての事情を呑みこんだ司は条件を出す。
「今から二年で返せ。劇団が上げた収益しか認めない。
返せなかったらシアターフラッグをつぶせ」
借金総額300万円。

債務期間中の資金繰りは司が管理する。
「どんぶり勘定は通用すると思うなよ」
「守銭奴けっこう!金は正義だ!」
かくしてシアターフラッグの「鉄血宰相」誕生。

黒字を出せるプロになれるかどうかの力試し。
遠からず巧がそしてシアターフラッグが
通らなければならない試練の前倒しなのだから
コスト意識がしっかり身に付いている社会人の司が
裏方としてついてくれるのはラッキーなことです。
たとえそれが鉄血宰相だとしてもね^^

巧は才能があるしシアターフラッグの観客動員数も
マイナーメジャーと言えるくらいのもの。
それほど高いハードルが設定されているわけではないので
お手並み拝見といった感じで気楽に読みました。
ハラハラすることはあまりない^^;

弟の巧は極度の人見知りと引っ込み思案のため
ずっといじめられっ子だった。
巧に転機が訪れたのは売れない役者の父が関わる
演劇のワークショップ。
一人の時間のごっこ遊びで培った
物語をつくる力が花開き息苦しさから解放される。
生まれて初めて自己実現を叶えた演劇にのめり込む。

「全力でやって折れること」によって
演劇をあきらめ弟がまともな職に就くことを
望んでいると兄の司は言うけれど
どうもあやしい^^;
本心であるけれど違う方向の気持ちもあるのだと
徐々にわかってきます。
「一緒に作る」ことを始めてしまったら
折れることだけを望むはずがないじゃない。
ずっと弟を見ていた兄ちゃんなんだから。

巧は最初からそれをわかっているかのように
兄が劇団に関わってくれることに
どこかウキウキしているのが伝わってきます。
まったく末っ子気質の憎めないヤツなんだから。

手のかからない子はいつも後回し。
兄が何かを諦めたような顔をしていたことを
巧は知っている。
「作る者」同士が分かる領域に自分は立ち入れないと
司はわかっている。役者だった父が巧に向ける笑顔が
自分に向けられることはないのだ。

いつもながらの細やかでやさしい有川さんの筆致が好きです。
これがあるから登場人物たちを大好きになってしまうのだわね。

「天女が降ってきた」
巧にとっての天女・羽田千歳。
不器用で一生懸命、ちょっと頑固。
文章を書くのが苦手なので硬くなりがちなブログを
くだけた雰囲気にしようとがんばるところがかわいい。

シアターフラッグ看板女優・早瀬牧子
巧を変えたかったのに変えられなかった。
それなのに現れただけで変えてしまった千歳。
複雑な感情を自覚しながらも踏みとどまる。
それならば千歳が追いかけるような先輩になろう。
「自分を追わせて千歳に刻む」
唯一それだけが千歳に勝てる方法だから。
かっこいいです!

「おもしろかった。けど軽いから減点」
分かりやすいエンターテインメントを目指す集団は
どこもなかなか評価されない。
シアターフラッグは演劇に詳しくない客がメインであり
素人がカジュアルに楽しめる商品で新しい客をひきこむ。
カジュアルな商品こそそのジャンルの間口であり
それを軽んじることは新規の客を弾く結果になる。
軽快という価値観が瑕疵になるのはおかしい。

シアターフラッグの特性を評価しない業界について
司はこんなふうに語っています。
…これはまさに有川浩の作品に置き換えられるのでは。

今の有川浩の作風ではお堅い賞には受け入れられないでしょう。
でもうまい人なのだからターゲットを絞って
小綺麗に体裁を整えればいつかはうまくいくかもしれない。
しかしその時にはベタ甘ってなに?の大人の世界に
シフトチェンジしてつまんなくなってしまうのではないかな。
それだけは勘弁してくださいね。
(そんなことにはならないと思うけど^^)

シアター! (メディアワークス文庫)

シアター! (メディアワークス文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
  • 発売日: 2009/12/16
  • メディア: 文庫

どうでもいいこと…
有川さん、「巧」という文字を打つときに
「巧い」で変換してませんでしたか?
「上手い」でも「うまい」でもなく
「巧い」が大量発生していたので…


タグ:有川浩
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