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『ジョーカー・ゲーム』 柳広司 [読書]

スパイ養成学校【D機関】 常人離れした12人の精鋭。
彼らを率いるカリスマ結城中佐の悪魔的な魅力。
東京、横浜、上海、ロンドンで繰り広げられる
最高にスタイリッシュなスパイ・ミステリー。
吉川英治文学新人賞・日本推理作家協会賞W受賞。

おもしろかった!
「魔王」という呼び名にふさわしい結城中佐
カリスマ性あふれる魅力的な人物が物語を支配する

【D機関】
昭和12年秋、結城中佐により開設された
「“情報勤務要因養成所”設立準備事務室」
実体はスパイ養成学校【D機関】
スパイとして教育されるのは軍人以外の民間人
陸軍士官学校や陸軍大学ではなく
一般の大学を出た学生から選抜される。

参謀本部から出向を命じられた佐久間陸軍中尉が
その男に会ったのは昭和13年4月

余分な肉など一グラムもない、
やせぎすといって良いほどの細身の身体。
右手には白い革手袋。左足をひきずり、杖をついている。
(かつてスパイだった結城中佐は味方の裏切りで捕らえられ、
敵国諜報機の拷問をうけた結果、
右手は奇妙な形にねじ曲がっている。
その傷跡を隠すために
白い手袋は常に外されることがないらしい)

「それで、貴様が参謀本部から派遣されてきた
スパイというわけか」

陸軍内での結城中佐への反発は激しく、
参謀本部からの出向者の受け入れを
開設の条件として認めざるを得ない。
こうして佐久間は【D機関】初代の受験者たちが
選抜試験を受けるところから立ち会うこととなる。

観察力、記憶力を試すための奇妙奇天烈な試験を
難なく突破した恐るべき能力を持つ12人の学生たち。
選ばれた者たちは、寝食を共にしながら
スパイになるための訓練を受けることになる。

陸軍士官学校とは何もかもが違いすぎた。
任務を遂行するために唯一必要なものは
その場その場で自分の頭で考えること。
「天皇制の是非」を論じることさえタブーではない。
軍人となるために佐久間がたたき込まれた教えは
ここではくつがえされる。
「殺人、及び自決は、スパイにとっては最悪な選択肢だ」

【D機関】の第一戒律は「死ぬな。殺すな。」
敵を殺し、あるいは敵に殺されることを
暗黙の了解とする軍隊組織の中で
【D機関】は周囲を腐らせる「危険な異物」なのである。

名誉や愛国心のためではなく
ゲームに勝つことだけが目的のような人物たちが
軍隊とは異質な機関(しかし軍隊に所属する)で動きだす。
軍人の考えにとらわれないがゆえに
軍人以上の成果を上げるスパイたち。

五作品が収められている連作短編集。
表題の「ジョーカー・ゲーム」
陸軍から派遣され監視を続ける佐久間陸軍中尉
【D機関】に反発しその考え方を受け入れることなど
断じてできないと冷ややかに接している。
しかし…
彼らの考え方は佐久間に影響を及ぼす。
「駒として使い捨てられるのはごめんだ…」

「ジョーカー・ゲーム」が一番好きです。
結城中佐の出番が多いからかもしれないけど^^;

最後の短編「XX(ダブルクロス)」
ラストに見せる結城中佐の人間くささにしびれました!
本の最後にこれだもの、参りましたわ。

以下、未読の方はご注意を…

 

「幽霊(ゴースト)」
【D機関】のメンバーの優秀さを見せつけられます。
「コピーとは、スパイがある人物の外貌から経歴 
人間関係、身振り、口癖、趣味、食べ物の好き嫌いに至る
ありとあらゆる情報を自分の内に取り込むことをいう。」

「ロビンソン」
結城中佐から渡された一冊の本がキーワードでした。
魔王が仕掛けた大がかりな罠、絶体絶命からの脱出劇。
おもしろかった。

「魔都」
上海租界はスパイが暗躍するには格好の舞台です。

「XX(ダブルクロス)」
二重スパイだと疑われていたシュナイダーが死んだ。
遺書があり警察は自殺と断定したが、
彼の身辺を洗っていた【D機関】の飛島は
不自然さを感じた。
*
待ち合わせしていた男性が
自分の部屋から帰ってしまったと思っても
女性は一縷の望みを捨てられない。
そこに友人を連れて帰るのは不自然だと思う。
遺書は母国語で書くのでは。

「とらわれない」ということはかくも難しいことなのか。
甘美な思い出も捨て去らなければならない。

【D機関】を離れる人間へのはなむけとして
本名を呼び、軍隊式の敬礼と一言。
「死ぬなよ」

う~っ、素敵すぎですわ、結城中佐!
魔王であるだけではカリスマ性は生まれない。


 

ジョーカー・ゲーム

ジョーカー・ゲーム

  • 作者: 柳 広司
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/08/29
  • メディア: 単行本


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