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『追想五断章』 米澤穂信 [読書]

古書店アルバイトの大学生・菅生芳光は、
報酬に惹かれてある依頼を請け負う。
依頼人・北里可南子は、亡くなった父が生前に書いた、
結末の伏せられた五つの小説を探していた。
調査を続けるうち芳光は、未解決のままに終わった事件
“アントワープの銃声”の存在を知る。
二十二年前のその夜何があったのか?
幾重にも隠された真相は?
米澤穂信が初めて「青春去りし後の人間」を描く最新長編

一筋縄ではいかない構成の妙。
おもしろかったです。
読後感もよかった。苦さは残るけど。
出だしの陰鬱な雰囲気にくじけそうでしたが
読んでいくうちに引きこまれました。
私は好きです。

北里可南子の父・参吾が書いた五つの小説は
「リドルストーリー」だった。
どういうものかご存じですかという問いに、
「読者に委ねて結末を書いていない小説のことですね。
芥川龍之介の『藪の中』のような」
と芳光は答えている。

北里参吾が残した文箱には原稿用紙が五枚あり
それぞれに小説の結末らしき一行が書かれていた。

読み終わると「青春去りし後の人間」という言葉が
何を意味するのかわかります。
今は亡きひとりの男の人生が浮かび上がる。
そして主人公の若者も現実を受けとめ
自分の人生を引き受けようと動きはじめる。

参吾の人生の結末は娘の可南子によって
すでに明らかになっている。
結末がわかっている小説を探すという行為は
娘を守り慈しんで育てたという事実があり
では、それ以前の人生はどのようなものだったかを探り
「不幸ながらも彩りに満ちた人生」を明らかにすることと
同じ形に重なっているように見えます。


読み終えて「序章」をもう一度読むと
ああそうだったのかと腑に落ちます。
見事です。

どこか血なまぐさい断章ばかりでしたが
「雪の花」はきれいでした。
参吾の心情がこめられているのはこれだけですものね。


以下、未読の方はご注意を

 

 

「決まりの悪い作り笑顔で、暗がりから女の子が現れた。」
四つ目の作品の最後の一行に「?」と思った。
どうも本編とはそぐわない気がする。
むしろ最初に見つかった作品のほうにあうのでは?
4分の3を読み終えた頃に読者が気づくように
作者は計算して仕掛けているのでしょう。
「アントワープの銃声」という記事が出てくるのは
次の章になります。巧緻な構成力です。

自尊心が強く子どもっぽいところがあったという
若き日の北里参吾。
きっと結婚してからも変わらなかったでしょう。
しかし妻の死で残された小さい娘と暮らすうちに
彼のうちで変化が起こる。
「人は誰かに頼られたとき、まさに一箇の人となる。」

「邪魔者とは言わぬまでも、どうにも始末に困る存在だった。」
束縛する存在だと娘をうとましく思っていたのに。

自分を糾弾する連中に真実を叩きつけ溜飲を下げるために
五つの断章を書いた参吾だったが
結果として真相をストレートに明らかにすることはなかった。
すべては娘の将来のため。

「生きている間に話をするべきだった」
という娘の可南子の言葉もよくわかります。

「真実は永遠に凍りついている」

米澤穂信の文章はどこか冷ややかな印象がありますが
まっとうに地道に生きている人への視線が優しくて
そのギャップが魅力的です。

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追想五断章

追想五断章

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2009/08
  • メディア: 単行本


タグ:米澤穂信
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