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『毎日が夏休み』 大島弓子 [大島弓子]

夏休みが始まりました。
学校が苦手だった10代の私は、夏休み心から大歓迎!
でも、母親になってからはちょっと事情が変わった。
子どもたちのにぎやかすぎる夏休みにぐったり^^;

大島弓子さんの『毎日が夏休み』は1989年の作品。
同名のコミックスが1990年に発売されています。
ちょうど長男の子育て真っ最中で
マンガの世界から離れていた時期。
ある日、新聞にこの本を紹介するコラムが載っていて
ああ、大島さんは相変わらずご健在なんだと
嬉しくなり、すぐに本屋さんへ直行。
久しぶりに読んだ大島作品。
心の隅々まで染みわたりました。
慣れない子育てにささくれだっていた心に
清々しい感覚が広がっていく。
生き返った気分。
呼吸が楽になっていくような気がした。

学校にどうしても馴染めずに
暗い気持ちでいた10代の私も
「かがやくまぶしい光」があると
心のどこかで信じていた。
それは大島弓子さんの作品をはじめとする
当時の少女マンガからメッセージをうけとって
深く刻み込まれたものだと改めて感じます。

苦しんでいる子どもたちがいるならば
今あなたがいるその場所だけがすべてだとは
決して思わないでほしいと言いたいです。

『毎日が夏休み』は学校からドロップアウトした
中学二年生のスギナが主人公です。

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スギナは13歳、中学二年生。
十年前に離婚した母はスギナを連れて再婚した。
「義父もまた再婚者であるので
うちはスクラップ家族です」
「子供のころからあまり話さない」

今日も元気で登校拒否しているスギナは
公園で時間をつぶしている。
そこで出会ったのは義父。
(同じく出社拒否、というか辞表提出済み)

いじめられている子の味方をしたら
立場が逆転してスギナがスケープゴードになり
いじめられていた子がいじめる側についたこと。
それが登校拒否の理由。
義父は企業と方針があわなくて退社。
スギナを連れて就職できる先を義父は探しはじめる。
子供連れの就職なんて無茶な話です。
しかし義父はあきらめない。足を棒にして一日中探しまわる

夜も更け、義父の様子に不安を感じたスギナは
真っ直ぐに顔を見てこう言います。

「お義父さん 夏の陽ざしにできる影って
濃くて深いよね」
「人生も濃くて深い影があればその裏には
かがやくまぶしい光がぜったいある!」
「ぜったいにあるんだよ お義父さん」

「…そのとおりだ スギナ」
「そのかがやくまぶしい光をみつけに
我々はでかけるんだ」

おとうさんはスギナの言葉を待っていたようですね。
「かがやくまぶしい光」をみつけるために
「我々は」でかける。


ふたりは自宅で「なんでも屋・林海寺社」を開業。
社長が義父、副社長がスギナ
東京郊外につくられた約五千戸の新興住宅地
十年間の顔みしりが五千件、仕事の宝庫です。

初仕事は失敗ばかり。
お買い物・夕食のしたく・おふろのそうじ
ほしたふとんの取り込み、ことごとくうまくできない。
会社人間だった義父の家事の知識はスギナより劣る。
でも、落ちこまない。
「あんなことすら自分がうまくできなかったということに
感動してる!」
「どんどん小さくなる 
どんどん謙虚になる自分を感じる」
「感謝と畏れと情愛を感じる」
「あの人にも あの人にも あの人にも あの人にも
この子にもだ」
娘をぎゅうっと抱きしめる。

「いるとしたら時の神にも感謝する」
「娘を抱くのに間に合った」

さり気なく描かれていますが大好きな場面です。
手遅れにならなくてよかった。
スクラップ家族のままで崩壊しなくてよかった

もう一人の家族・スギナの母はというと…
一流企業のエリートの座を勝手に手放した夫を
許すことができない。(当たり前だけどね^^;)
近所の人たちのうわさ話、
絶対に弱味を見せたくなかった
前の夫からの援助の申し込み
(善意であっても むしろ善意だからこそ?)
プライドはずたずたです。

おとうさんは妻をどうするつもりなのかと思いながら
読んでいくと、最後にすごいサプライズがあります^^




 

『毎日が夏休み』は好きなシーンが満載ですが
教室でのこの場面も大好きです。

感情にまかせた行為で義父に怒られ拒否され
行き場のなくなったスギナは
母のいらだちを半減させるために
久しぶりに学校に行くことにします。
久しぶりだから英語の授業で突然指されても
リーディングなんて無理。
しどろもどろ。

「と その時 後ろから引き水のように
サラサラ流れてくる 英語があるのであった」
「ワンフレーズづつ 流れては止まり また流れる」

小さい声の主はスケープゴードの女の子。
教師の「はいそこまで」の声に
「Thank you」
スギナはひとこと付け加える。
このやりとりが好きです。

義父から学校に電話がはいる。
「君にはどなる前にもっと教えることがあった
それに第一 林海寺社には君が必要なんだ」
「すぐに家に戻るように」

「キミガヒツヨウ」
「こんなスウィートなことばが この世にはあったわけだ」

スギナ復活^^
有名で一流の会社になればお母さんは帰ってくる
ますます仕事にはげみます。

義父の別れた妻・紅子のマンションが火事になる。
天袋の奥に入ってしまったものを取り出してほしいという
依頼を受けたことがあったが、もう一度予約がはいっていた。
(さりげなく復縁アピール)
燃える部屋で仕事を遂行し、義父は大やけどで入院。
見舞いにきた母も倒れて入院。
高給にひかれて(当てつけに)はじめた赤坂のクラブのホステス
慣れない仕事でのストレスで満身創痍。
「ふたりは枕をならべて入院してしまった」

こんなとき先行きの事考えないでよく眠れるわね
(妻のイヤミ)
「回復した時は はじめからやりなおせばいい」
「もし死ぬようなことがあれば いっしょに死のう」

ここでこんなセリフ…
スギナの言うように殺し文句ですよね、これは。
うろたえる妻の表情が少女でかわいい。

「義父といっしょに死ぬのはあたしではなかったわけだ」
そして元妻の紅子さんでもなかった。

スギナは紅子さんから仕事を依頼される。
一緒にパフェを食べること。

「パフェは思考力をマヒさせ失恋にはよいそうで
あたしたちは めいっぱい食べることにしました」
「するとあたしたちは冷たい爬虫類みたいに
なってしまいました」
「太陽をあびて体をあたためなきゃ!」
「初夏の太陽をあびていると
だんだん体もあたたまって
ムクムクと力がわいてくるのを感じました」
「そして思いました」

「ああ わたし いっぱい 仕事したい!!」

林海寺社は日本の大手企業のひとつになりました。
(マンガ的素敵展開^^;)
今では義父は引退し母と共に悠々自適に暮らしている。
スギナが社長になっています。

「考えてみれば あの日のあたしは
まぶしい永遠の夏休みを手に入れたのだと思う
計画する
実行する
失敗する
出会う
知る
発見する
冒険とスリル
自由とよろこび」

「まさに夏休みそのものだ」
 
「かがやくまぶしい光」
見つけることができました。

「I need you」
若い頃は紅子さんに言えなくて別れることになってしまったけれど
娘と妻には言えました。
間に合ってよかった!

心に残る大好きな作品です。

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タグ:大島弓子
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コメント 4

びっけ

この作品、いいですよねぇ。
でも1989年の作品だったとは!
なんだか娘時代に読んだような気がしていましたわ。(^^;

このお父さんが、ひょうひょうとしていて、いいなぁと思います。
お母さんへのあの台詞はもちろんのこと、
「義父の英語は美しいキングズ・イングリッシュだったこと」・・・というくだりでも、やられました!

なずなとお父さんが、あまりにも超越しているから、お母さんが俗人っぽく見えてしまいますが、私は完璧にお母さんサイドの人間です。
そういうところも含めて受け入れてくれるお父さん!
大島弓子のマンガに出てくる男性でもベスト 3 に入る方です。
by びっけ (2010-08-02 00:38) 

miyuco

>びっけさん
本当にあのおとうさん、いいですよねぇ。
美しいキングズ・イングリッシュ
「お茶を飲みながら全ての授業をしたこと」
ああ、なんてうらやましい!
その授業私も受けたいです!
おかあさんの気持ちを考えてないようでいて
最後にあのセリフですからね^^
もう、大好きですわ。
nice!とコメントありがとうございます♪


by miyuco (2010-08-03 12:42) 

sknys

miyucoさん、こんばんは。
学校へ行きたくないのなら、無理に行く必要はない。
しかし、日本ではドロップアウトした後の道が閉ざされている。
公立校は出席日数は3分の2で卒業出来たのかな?
逆に言えば3分の1は自主的に休めるわけです^^;

ジョン・ラスキンの言葉が引用されている(P60)。
「ラファエル前派」を擁護したことでも知られる英美術批評家は若い画家たちとも親交があった。
妻のエフィー・グレイはラスキンと離婚して、ジョン・エヴァレット・ミレイと再婚している。

ジョン・ラスキンの「格言」は朝の授業で学んだのでしょうか。
なぜか義父(林海寺成雪)が英国通‥‥若い頃、イギリスに留学していたとか^^;
by sknys (2010-08-03 23:45) 

miyuco

sknysさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。

[仕事に喜びを見出すためには三つのことが必要である]
・適性がなければならない
・やりすぎてはならない
・そして達成感がなくてはならない
        〈ジョン・ラスキン〉
お母さんが身をもっておしえてくれたこと
と大島さんの手書きの文字が添えてありました^^

高校生ともなれば自発的に学校を休み
時間をつぶすこともできるのですが
小学生の頃はたいへんでした。
あの頃は不登校なんていう言葉はなくて
「ナマケモノ」というくくりだけでしたから。

そんな私でも社会人として働き
今はのんきに暮らしているのですから
世の中、なんとかなるもんですわね。

by miyuco (2010-08-04 19:43) 

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