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『赤い指』 東野圭吾 [読書]

目先の事しか考えない親子三人に腹をたて
愚かな人間しか出てこない本なんて…
と思っていたけれど、そうではなかった。
加賀父子の関係を描いたサイドストーリー
そこにも思いがけない展開があって最後まで読ませます。
やっぱり東野圭吾はうまい。
年若い刑事と組んだ加賀が導師(メンター)としての役割を
(結果的に)果たすところもおもしろかった。

「早く帰ってきてほしいんだけど」
前原昭夫が、妻から切羽つまった様子の電話を受けたのは、
金曜の夕方だった。
重い気持ちで家に帰ると、庭に幼い少女の遺体が。
部屋に閉じこもる息子のやったことなのか。
事件と向き合うことで昭夫は、家族と向き合うことになるが──。

結果として昭夫は家族となんか向きあいません。
それまでと同じように何とかごまかそうとするだけ。
事を起こした張本人ときちんと話すことさえしない。
息子を知ろうとしたことがないのだから
こういう事態になってもどうすることもできない。

物語を半ば過ぎても息子の姿は出てこない。
「直巳は十分に反省してるわよ。
だから部屋に閉じこもってるんでしょ」
「あの子だってショックを受けてる」
だから私が話を聞いてくると母親は言う。
昭夫は強いて妻をおしとどめるようなことをしない。
息子は部屋に閉じこもっているだけ。
今までもずっとこんな風にしてきたのでしょう。

「自首させれば、まだ未成年だし、
更正するチャンスだって与えられる。名前も公表されない」
しかし昭夫の常識的な提案は
妻・八重子の捨て身の説得に阻まれ
幼い女の子の遺体を近くの公園に移し
あくまで犯行を隠し通す。

「あの子が何をしたとしても、あたしが守ってやる。」

「守る」という言葉で子どもをスポイルした結果が
愚かで衝動的な行為を引き起こしたのに、
この期に及んでまだこんなことを言っている。
昭夫の息子にたいする至極まっとうな言い分を
ことごとく否定する八重子の口ぶりが
いかにも世の母親が言いそうなことで
うまいな~と思いました。

たぶん私も息子たちに似たような事を言っている。
子どものことを誰よりもわかってるのは自分だと
何故だか母親は確信してるわけで。愚かなことに。

破綻するに決まっている結末に向かって
物語は進みますが…

以下、未読の方はご注意を

 

*
*
*

遺体についていた発泡スチロールの粒から
犯人が車を使っていないと推理するところは
論理的で説得力があり、
作者の安定感が窺われて、いいなと思いました。

「前原さん、あなたはおかあさんの目を
真剣に見つめたことがありますか」

警察への協力者は思いがけないところに存在していた。
息子夫婦の愚かなふるまいを身近に見ていて
どんなに情けなかったことでしょう。
年老いた母・政恵の気持ちは息子たちには届かなかった。

加賀は政恵の気持ちを大切に扱う。
人情味あふれる目配りのきいた捜査でした。

はたから見ると冷ややかな関係に見えた加賀父子。
しかし…

こういうエピソードを持ってこられるとたまらないです。
父と子はお互いの気持ちを尊重している。
それまで計り知れない葛藤があったのでしょうけれど。

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赤い指

赤い指

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/07/25
  • メディア: 単行本

 


タグ:東野圭吾
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コメント 3

miyuco

c_yuhkiさん、nice!ありがとうございます。
by miyuco (2010-10-08 23:34) 

綺華

私は去年この本を読んだ時、やはり母親としての
自分の言動や行動を考えてしまいました。

ホント、子供に厳しくするって相当の覚悟が必要です。

東野さんの小説でこんな事考えるとは思わなかった(笑)

別の意味ですが、「さまよう刃」を読んだ時も
自分の正義感とか、善悪について悩んでしまって
読んでいる間中なんか毎日憂鬱になってしまうと言う・・・(笑)

東野圭吾さんに踊らされてます(^_^;)
by 綺華 (2010-10-11 11:21) 

miyuco

綺華さん、nice!とコメントありがとうございます。
この本に出てくるように
私もダンナと子どもたちの間で
伝令をやってました^^;
でも、ある時これはダメだわと気づき
やめました。…やめたつもりです。
…完全にはやめてないかもしれない[__バッド]
まだまだ甘い母親です(x_x;)

「さまよう刃」
読むとつらくなりそうで躊躇しております…
文庫で新刊「白銀ジャック」が出ましたね。
こっちから読んでみようかな。
by miyuco (2010-10-13 19:01) 

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