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『子どもたちは夜と遊ぶ』 辻村深月 [読書]

「毀れた絆と、片思い。せつない恋愛ミステリー」

「恋愛ミステリー」の部分は下巻になって現れます。
上巻は殺人ゲームがメイン。
破滅へとひた走るθ(シータ)があまりに哀れで
読むのがつらかった。残虐な描写も苦手。
しかし結末が気になる。
iとθは再会できるのか。
再会したら二人は」どうなるのか。
下巻にはいるともうそこからは読む手が止まらない。

命を賭けた壮絶なラブストーリーでした。

凄惨な殺人ゲームの血なまぐさい物語。
それなのに読み終わった後に残る余韻は
不思議なほどきれいだった。

辻村深月の作品は結末を予想できない。
こういうラストを迎えるなんて・・・
と思うことが多々あります。
この本もそうでした。

教室で二人が対峙する場面は凄かった。
感情が臨界点を超えてしまったような描写が
辻村さんはとても上手い。
読んでいるこちらの感情もシンクロして
引き込まれていきます。

「大好きで泣かせたくない存在」
やっと探しあてたのに
「少しずつタイミングがずれた」
結果おとずれた悲劇に浅葱はどれだけ絶望したことか。
その絶望の深さ。
残された道は破滅しかない。

作者は浅葱になぜこんなにも哀れな結末を
用意したのだと悲しい気持ちでいっぱいになる。
しかし・・・

ここから物語は急展開を見せる。

心に残る作品で大好きですが
読者とθをミスリードしたあの件は
フェアではないと思う。
四年間という時間を考えればあまりに不自然。
これがなければ作品は成立しないけれど
彼のことを考えると不条理でやりきれない。

まだ書きたいことがありますが
以下、未読の方はご注意願います。

そうだ、これだけは言っておかなくては。

「石澤恭司は本当にかっこいい」

*

*

*

以下、だらだらした感想です。
どうもうまく書けない・・・

「みんなが言うかもしれない。
そいつは可哀想な男だった。
不幸で、どうしようもなかった。
そういう言い方をするかもしれない。
だけどね。月ちゃん、覚えておいて。
君が愛したそいつは、決して不幸じゃなかった。」

いつもそばにいた藍がそう言うならば
不幸じゃなかったと信じるべきなのでしょうか。

「何を見ていた?どうして関心をむけなかった。
浅葱は誰にも興味がなかった。」

浅葱が倒れたとき狐塚が自分のために
あれほど取り乱したのを見ていたのに。
「月ちゃんを泣かさないでよ。頼むよ。
俺、浅葱も好きだから
なるべくお前に対しても怒りたくないんだ。」
恭司の言葉も聞いていたのに。
「浅葱のことが、私も孝太くんも萩野さんも、
みんな好きなんだよ」
月子の言葉も心からのものだったのに。

「i」にとらわれて身動きできなくなっていた。
過去の呪縛はそれほどまでにきつい。

***

「全てを知りながら眠り続ける僕と、
都合のいい解釈を胸に生きていくもう一人の浅葱」

「i」は浅葱のなかにうずくまり
ずっと死にたかったと言う。
しかし彼が生み出した“浅葱”は
死にたいなんて思っていなかった。
「i」(本来の浅葱)は心のどこかで
生きていたいと願っていたからこそ
浅葱を生み出したのでしょう。
(浅葱は)「僕の生きていく支えだったんだ。」

「助けて、浅葱、そばにいて」

しかし藍だと思っていた存在を手にかけ
二度目に兄を失った浅葱の自我は崩壊寸前。
だから「i」は浅葱を追い詰めようとゲームを始める。
「僕はね、浅葱をきちんと殺そうと考えていた。」

「i」は死を望んでいたのに思いがけず生き残ることになる。

「大好きで泣かせたくない存在」に
浅葱がたどりついたこと。
その事実がその後の「i」を生かすことになったわけですね。

「夜を照らす月の光は素晴らしく明るい」

結果、本来の浅葱(i)は生きていく。
月子が、狐塚が、恭司が知っていた浅葱はもういない。


本来の浅葱(i)によって役目をあたえられ
最後は(i)に追い詰められ消えていく浅葱。
死にきれなかった本来の浅葱(i)は
もはや死を望まず生に執着し
それは消えた浅葱がきちんと
役割を果たしたことになるわけで・・・
まるで浅葱は人身御供のようです。

消えてしまったけれど彼を好きだった人たちの
記憶の中に浅葱は永遠に存在する。

恭司が言っていた映画は「レッド・ドラゴン」。
私は映画は見てないけれど原作を読みました。
大好きでした。
「子どもたちは夜と遊ぶ」の世界に
「レッド・ドラゴン」のダラハイドがはいりこんで
浅葱の悲劇がなおさら増幅して感じられた。

恭司は踏みとどまっている。がんばっている。
だから浅葱に寄り添うこともできる。
最後に殴ってから月子のところへ行かせたのね。
本当にいいやつだ。

月子は浅葱のために命を投げ出そうとした。
瀕死の状態であそこまでするなんて。
せつなすぎるよ、月ちゃん。

「僕はそんなことは許さない。」
きっぱりと言い切る秋山先生、好きです。
月子の意思を無下にして命を優先する。

しかし月子はなぜ浅葱に思いを伝えなかったんだろう。
もしかすると紫乃の存在があったからかな。

「だれかもつれた糸をヒュッと引き 奇妙でかみわない人物たちを
すべらかで自然な位置に たたせてはくれぬものだろうか」
           ーーー大島弓子『バナナブレッドのブディング』

それでも浅葱は破滅するしかなかった。

海外留学をかけた論文コンクールに応募した幻の学生「i」
ゲームの引き金を引いたのは上原愛子だった。
「頭がいいが故に周りと適応できない、とても気高くてもろい魂」
「もう一人の浅葱であり、もう一人の藍だ。」
浅葱のように凄惨なダメージを受けていたわけではなく
家族もいた上原愛子は孤独なまま
誰からも手を差し伸べられることなく死んでいった。
あまりに救われない。

狐塚と恭司は「本日は大安なり」に出ていたそうです。
あのふたりがそうだったのね。
「ぼくのメジャースプーン」にも登場する人がいるらしい。
まだ読んでいないので楽しみです。




子どもたちは夜と遊ぶ(上)子どもたちは夜と遊ぶ (下)






「子どもたちは夜と遊ぶ同盟」というページを見つけた。

・辻村深月さんの中でも特に子どもたちが好き
・浅葱のどうしようもなさに心惹かれた
・月子の一途な想いに泣いた
・狐塚の下巻P22の台詞・行動にときめいた
・恭司に全てを持っていかれた
・文章・雰囲気が好き
・子どもたち一番じゃないけど辻村深月さんが好き
・とにかく子どもたち好きを主張したい!布教させたい!
そんな方々はサイトやブログの片隅にアイコン貼り付けてやってください。

と書いてありました。
ああなんて簡潔で明瞭な感想なんだろうと
感心した次第でございます^^

私のはただの駄文だと反省。


タグ:辻村深月
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コメント 3

miyuco

ミナモちゃん、nice!ありがとうございます♪
by miyuco (2012-11-15 17:33) 

sknys

miyucoさん、こんばんは。
それにしても長いなぁ‥‥やっと読み終わりました。
ワープロ(パソコン)によって作家の執筆時間は短縮されたが、読書時間は変わらない。

新本格かと期待したらサイコ・ミステリー、
女版・綾辻行人かと思っていたら、森博嗣だった?
月子の苗字が明かされないのは「林刑事」と同じ趣向(叙述トリック)ですね。
3人称の視点が目まぐるしく変わりすぎるところも。

木村浅葱の独白はボルヘス言うところの「当てにならない話者」。
1人称視点の「エピローグ」で描写される恭司はレクター博士や真賀田四季を想わせなくもない。

エンターテイメントとしては悲惨で痛々しくないか?
萩野清花が救われないじゃないか!‥‥など、不可解なところもあるけれど。
次に読むべき辻村深月のミステリーは?
by sknys (2012-12-28 00:51) 

miyuco

sknysさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。
ふふふっ、辻村深月の本は長いものが多いです。
ミステリーとして期待すると厳しいかな。
私は毀れた感じが好みですけれど。

「ぼくのメジャースプーン」は
ゲーム「ラブプラス」のなかの読書月間の
一冊になってるみたいですよ。
(後の二冊は赤毛のアンと魍魎の匣)
sknysさんのお気に召すかどうかはちょっと不安・・・
by miyuco (2012-12-29 21:13) 

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