SSブログ

『悲嘆の門 上・下』 宮部みゆき [読書]

なんだか釈然としない読後感。
現実の殺人事件とファンタジーの部分が
うまく融合してないような気がして。

元・刑事の都築がかっこいいです。
心の一部を奪われても自分を取り戻す。
強くて芯の通った老人は
宮部さんの作品にかかせない存在ですね。

下巻はデスノートっぽいところがあります。
[力]に汚染されるとか正義感の暴走とか、
「夜神月」的な既視感がいろいろ。
しかし宮部さんの筆力は見事です。
なんともいえない乗っ取られた感(呑みこまれた感)の
気持ち悪さをうまく描き出しています。

やってしまったことの重みを背負って生きていく。
それがどれほどの苦しみをともなうのか
幸太郎のこれからの人生を思うと
暗澹とした気持ちになります。

山科社長の言葉が印象に残る。
「書き込んだ言葉は、どんな些細な片言隻句でさえ、
発進されると同時に、その人の内部にも残る。」
「溜まり、積もった言葉の重みは、
いつかその発信者自信を変えていく。
言葉はそういうものなの。
どんな形で発信しようと、
本人と切り離すことなんか絶対にできない。
本人に影響を与えずにはおかない。」
「誰も自分自身から逃げることはできないのよ」

line3-1.gif

大学一年生の三島幸太郎は
「サイバーパトロール」の会社でバイトしている。
同じ時期に入ったバイト仲間の森永健司は
ネットで囁かれるホームレスの失踪事件を調べていたが
突然、消息を絶ってしまう。
彼が残した情報を元に行方を追う幸太郎は
「お茶筒ビル」にたどりつく。

“動くガーゴイル像”の謎に憑かれる元刑事・都築も
「お茶筒ビル」に手がかりを求める。
ある夜、幸太郎と都築はビルで鉢合わせする。
ふたりが屋上で見たのは、この世のものではなかった。

「異形の存在だ。怪物だ。なのに女だ。
目を瞠るほど美しい。そして大柄だ。
神話に登場する巨人族の女戦士は、
きっとこんな姿なのだろう。」
差し渡し四メートルくらいの翼。
身の丈は二メートル以上。
大鎌を背中に担ぐ。
「我が名はガラ」

元・刑事の都築の向かって言う。
「おまえは、この領域の罪を漁(すなど)る者だな」
「罪を集めすぎたな、老人」
漁を続けたいという願望をガラは奪い取った。

いっとき穏やかになる都築ですが
下巻では復活するはず、
いや絶対に復活してほしいと思いながら読んでました。
もちろん都築のことですから自分を取り戻します。
よかった。

上巻は最悪の事態で終わります。

以下、未読の方はご注意を

(とっちらかった文章です。通常営業だけど

*

*

*

幸太郎の呼び出しに応じる田代慶子の醜悪な姿。
「人間を蝕む渇望のなせる業」
心に抱えた闇をあらわにする鬼気迫る描写は本当にうまい。

ありもしない連続殺人の幻想が
(見立てと言ってもいいのかな)
起こらなかったはずの事件まで呼び起こす
というようなことをクマーの山科社長が言っていた。
まさかそれが自分の身に降りかかるとは、
露ほども思ってなかったはず。

悲しみと怒りに身を震わせ
現実のなかで解決できないことに絶望し
無力感に襲われたとき、
目の前にぶら下がっていたのは
この世では得ることができない「力」
飛びついてしまうのも無理がない。

しかし、実際には捜査が進んでいて
解決に向かっていたわけで、
「力」の行使は空回りであり
真実を闇に葬り去った行為にすぎない。
遺された者は救われない思いを抱え続けることになる。

「俺も君も、魔物に遭遇した。
そして魅入られた。
魔物が使う黒い魔法は劇的だからな。
だが、もういい加減で目を覚ますべきだ」

「その左目の力を返して、引き返せ。
君はガラに近づきすぎた。
正しいことをしよう、悪を刈り取ろうとして、踏み込み過ぎた」
「志は正しかったのだけれど」

ガラがやすやすと力を貸すなんて不自然だと
思いながら読んでいたらやっぱり理由がありました。

無事に帰るために必要なもの
「おまえが、もっとも尊いと思うものを。
思い浮かべろ。それが標になる。」

「母が子を想う意思の残滓」
幼子に寄り添う光輪。

我が子を取り戻そうとするために
ガラが仕掛けた罠に陥り
幼子を守る母性の光に救われる。

帰ってきた幸太郎は重いものを抱えて
生きなければならない。
森永やマコちゃんもあれほど苦しんでいたのに
「黒い魔法」を使った幸太郎のこれからの人生は
どれほど苦難に満ちたものになるのだろう。

“「あれは、オレの選択でした。ガラのせいじゃない」
その選択の誤りを、戦士オーゾの選択が救済してくれたのだ。”

踏みとどまることが難しくなったら
都築を訪ねるんだよと声をかけたくなります。

「もう会わない方がいい。それがお互いのためだ。
「事件は終わった。私は引き揚げる。
小僧、君も君の人生に戻れ」
言外にそう諭されていると、幸太郎は感じた。」

こんなふうに宮部さんの物語には書かれているけれど
読者のわたしは幸太郎が耐え切れなくなったら
都築に会いにいかなければならないと考えたりする。
それは『悲嘆の門』という本から離れ、
わたしが紡ぐ物語ということになるのでしょうか。



母性、言葉、物語、渇望、
いろいろな素材が入り混じってますが、
どうにもうまくまとまってないという印象です。

長さに翻弄されてわたしの読解力が
落ちただけかもしれないけれど・・・

悲嘆の門(上)

悲嘆の門(上)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞社
  • 発売日: 2015/01/15
  • メディア: 単行本



悲嘆の門(下)

悲嘆の門(下)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞社
  • 発売日: 2015/01/15
  • メディア: 単行本


タグ:宮部みゆき
コメント(3) 
共通テーマ:

コメント 3

コメントの受付は締め切りました
miyuco

サイトーさん、nice!ありがとうございます。
by miyuco (2016-01-17 22:48) 

sknys

『模倣犯』(2001)と同じようなシリアル・キラーものだと思い込んで読んでいたので、女戦士ガラの出現には驚愕しました。
『英雄の書』(2009)の森崎友理子も美少女に成長して登場するとは!
「黒い影」の気味悪い描写は天沢退二郎のファンタジーを想わせる。
久々の「黒宮部」でしょうか^^;

「お前の見ているものが、お前の感じていることが、すべて真実とは限らない」というアッシュの言葉にシビレました。
三島孝太郎の「左目」から連想したのは〈Hidden Place〉のPV。
左目が効力を失っていなければ、続編もあるかしら?
by sknys (2016-06-24 22:39) 

miyuco

sknysさん、こんばんは。
コメントありがとうございます^^

この題材でガラを出さずに
シリアルキラーもので書いてもよかったのでは
と、ちょっと思いました。
そうしたら短編になってしまうかしら。

アッシュはかっこいいですよね!
by miyuco (2016-06-25 21:04)