SSブログ

『黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続』 宮部みゆき [読書]

三島屋変調百物語シリーズ六作目。

おちかはめでたく嫁にいきました。
ということで聞き手は
伊兵衛の次男・富次郎にバトンタッチ。

語り手の周旋を頼んでいるのは
灯庵という口入屋の老人。「蝦蟇仙人」

「あんたさんは面白がっとる」
「面白がってはいけませんか」
「他人の話を聞くことを軽く見とる」
「では、軽く見ないように用心しましょう」

蝦蟇仙人は不機嫌ですが
小旦那・富次郎は聞き手を引き継ぎます。
変わり百物語の評判はますます高まっている。
語り手は列を作って待っている。
おちかが聞き手ではなくなって寂しいけれど
話を聞いて胸を痛めることはもうないのだと思うと
よかったと安堵する気持ちになったりします。
若おかみのおちかは幸せそうですね。

怪異と不思議を語りにやってくる江戸の人々
「祟り」「呪い」「凶運がふりかかる」
駆け出しの聞き手・富次郎はうろたえ冷や汗をかく。
肝が据わっているとは言い難い動揺する姿が
なんだか新鮮です。

「ーーーまったく、おちかは大したものだった。」
「実にあの娘は立派だった。」
しかし、素手ではおちかにかなわぬ富次郎には、
絵を描くという技がある。

富次郎がんばれと応援したくなります。


029 点線青.gif


江戸で人気の袋物屋・三島屋の〈変わり百物語〉
「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」をルールに
黒白の間と名付けられた座敷を訪れた客が、
聞き手だけに胸にしまってきた怖い話や
不思議な話を語っていく連作短編集。

029 点線青.gif


「泣きぼくろ」
再会した友が語り始める一家離散の恐ろしい運命
「姑の墓」
村の女たちが<絶景の丘>に登ってはならない理由
「同行二人」
妻子を失った走り飛脚が道中めぐりあう怪異
「黒武御神火御殿」
異形の屋敷に迷い込んだ者たちを待つ運命

「泣きぼくろ」と「姑の墓」は震えあがりました。
恐ろしい話。

「同行二人」
のっぺらぼうの寛吉はカオナシみたいですね。
救い救われた話。

image1.jpeg

「黒武御神火御殿」
屋敷の主の悪しき魂の器。
怨念のつくりあげた幻の屋敷に
囚われた罪深き六人。
脱出までの過酷な試練に読むのが辛くなります。

忌まわしきクローズドサークルを生き延びたのは
リーダーシップをとる気高き武士の金右衛門と
気丈で聡明なお秋の力のおかげです

「どこの誰とも知らないあさっての人に、
勝手に裁かれちゃたまりません」

残り人数のカウントダウンに追い詰められて
疑心暗鬼からの悲惨な成り行きになっても
おかしくなかったのに。
踏みとどまりました。



博打ぐるいの甚三郎の言い訳。
自分勝手な理論を微に入り細に入り語らせる。
宮部さんは道を外した者の胸の内を描くのが
本当にうまいです。

「俺があいつと同じだから、
あいつは俺の前に現れるんです」
己を神だと思うほどに、愚かで傲慢だから。

お秋と甚三郎は最後までお互いを思いやる。
「聞き捨て」にしてもらって
さぞや肩の荷が下りたことでしょう。


d0052997_14542443.gif


image0.jpeg


黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続

黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞出版
  • 発売日: 2019/12/07
  • メディア: 単行本

タグ:宮部みゆき

共通テーマ: