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全て緑になる日まで (本の雑誌) [大島弓子]

本の雑誌を図書館から借りてきました。
6月号だから発売から2ヶ月もたっています。

「おられるか・おられないか・おられなければ・おきらいかどうか・・・」
という久美沙織さんの文章が載っています。
大島弓子さんの「ローズティー・セレモニー」の冒頭で、
ろうか側の席の土谷静子さんが
窓ぎわの席の田谷高太郎くんに出した
ラブレターの一文です。
「心にきめた方がおられるのでしょうか」
と書いたあとに続く言葉です。
ローズティー・セレモニーについて私が書くと、
また長くなるので置いておくとして・・・

問題は「全て緑になる日まで」について書かれている文章です。

「たとえば<全て緑になる日まで>のトリステスは
ふつうの女の子になりたい男の子だった。
われわれが忌避し重たく思う<少女>は、
彼にとっては鳥になりたいと願うのと同じほど
無理なあこがれの対象。
しかも彼の愛するマリオンは、彼を<女の子>の姿で描く。
マリオンから見たトリステスは、
誰より女の子らしい女の子なのに、
現実は気の毒にも男子なのである

トリステスは女の子、ジュラ王女です。
男子ではありません。ありえません。
マリオンはトリステスがジュラ王女であり
女の子であることを知っています。

「全て緑になる日まで」がわかりづらいというコメントをよく読みますが、
こんなふうに読んでしまうから、わからないのかな。
久美沙織さんは、レージデージ・クロステッチが
誤解しているトリステスの姿そのままに受け止めているから、
こういう捉え方になってしまっている。

貧しい自分の国の財政を考えて、
アラビア国王と政略結婚せざるを得ない王女が、
「女のコになりたい」と泣いている。
マリオンがレージデージに語ります
「いつか車の中から 家の中で 絵描いているボクを見ただけで
きたんだってさ 初め びっくりしたよ」
「・・・絵を・・・あの中に自由と光と緑をつめてやったよ
 それしか・・・できないよなオレたち」

「ねえ トリステス あなたの泣く場所は?
砂のかげ?月のかげ?
シルクロードの道のはた?」

久美沙織さんの文章は「全て緑になる日まで」の一部分を除くと、
大島弓子さんの作品を深く理解して愛しているのが伝わってきます。
読んでいてとても共感できて嬉しい。
だからこそ、私の方が間違っていたのかと、一瞬思ってしまいました。

 


タグ:大島弓子

<死>とは・・・ 葡萄夜 綿の国星 [大島弓子]

7/13日付の朝日新聞朝刊にこんな記事がありました。
脳腫瘍と、くも膜下出血の大手術、闘病生活、
そして28歳での解雇。
現在はアメリカ人の夫と共に
ソフトウエア開発販売会社を設立して
ビジネスに挑戦しているという
内田スミスあゆみさんという方の記事です。

個人的な感覚だが、闘病で体験した痛みと、
出産の痛みは、違っていた。
死の淵をのぞいた痛みは、
頂点に近づくと体や脳が和らげてくれたように思う。
しかし、産みの苦しみは最後まで楽にならなかった。
生きていくための痛みは和らげてはもらえない。
ささやかな、そして大きな発見だった。
痛みを感じることが、生きるということかも知れない。

臨死体験を扱った「航路」という本を読んでいるので心に残りました。
死への畏れが少し薄れるような気がします。

大島弓子さんに「葡萄夜」という作品があります。
チビ猫の話です。1980年LaLa9月号に掲載されました。
飼い主が急死したタマヤ猫は、別れの言葉を待っている。

ひとこと何か言ってほしいわ 飼い猫としては

主と暮らしていた廃屋のような家で飼い主を待ち続ける猫を
まわりの住民は化け猫が出たと騒ぎ立てる。
街灯のあかりで出来る猫の影が
生前の老婆のシルエットにそっくりだから

タマヤは飼い主に会うことができます。
「とっても気持ちがいいので何かわすれとった いかんいかん
ああ やっぱりあんなとこに ちょこんと首だけだしておる
玉や お玉 さよならを言うのをわすれとったよ さよなら」

花が咲いていて そばに清らかな 小川が流れてる
小さなコーヒー店に おばあちゃんは居た
風はあたたかく 女学生や子供や 大人や犬や鳥もいて
とおくには 青々とした麦畑があり 野菜をつんだトラックが
美しい土けむりを立てて 走ってた
とタマヤは話してくれた
ちょっと ふつうの町みたいだねえ とわたしは 思った

ラスト近く、高い木から回転して飛び降りる遊びに
つきあっていたタマヤ猫が
木から飛び降りるシーン。
高い所から地上に飛び降りる瞬間のモノローグ 

どちらもおなじ
かがやくのはら

1980年12月に26歳の若さで胃ガンのために亡くなった
花郁悠紀子さんというマンガ家の方の追悼文を
萩尾望都さんが書いていました。
「葡萄夜」のおばあちゃんがいる場所に言及して、
若すぎる死がつらくてしかたないけれど、
彼女がこういう美しい場所にいて
ゆっくりとコーヒーを飲んでいると思うと
少しホッとするような気持ちになれる、と書かれていました。
手元に資料がないのですが、とてもせつない文章でした。
泣けました。
<死>に出会ってしまったら、
わたしもそう思うようになりたいのですが・・・

生きている場所も、死んだあとの場所も、同じ。
現世は美しく輝く、そして死後も・・・

どちらもおなじ かがやくのはら

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七月七日に 大島弓子 [大島弓子]

「七月七日に」は1976年発表の作品です。
大好き

昭和18年 初夏のできごとです。

「母はみんながびっくりするほど長身で美しく 
かなりふうがわりな精神主義者だった」

「つづみちゃんは父の手ひとつで三つの時まで育てられた。その父が死んだ 
そしてあなたが来た 計算によると十六歳で」
「七月七日でした」
「わたしはいつもあの人をみておりました 
あの人はわたしをみませんでしたけれど
わたしの気持ちはかわりませんでした」

夜、母を捜して川岸までくると
「髪をながく水の中にあそばせて泳いでいる母さまをみつけたわ
月がでていて 母さまを まるで人魚か天女か・・・
あるいは もっとあやしい
えたいのしれない もののように てらしだしていたの」

こわいような たのしいような うそのような ほんとのような ふしぎな気持ち
つづみと同じような気持ちで、このシーンはとても印象的です。
そしてこの物語から受ける印象もこの気持ちに似ています。

つづみの行く末を考えてから、奥羽浅葱は去っていく。
去っていくときの笑顔も忘れられません。

「その思い出は少しも色あせず 
すこぶる鮮明な 夏の光と水の反射を 
正視できずに見るような 印象で存在するのです」

7月7日にはこの作品について書こうと決めていたのに
ソネブロのメンテであやうく計画倒れになりそうでした・・・

ヤングアメリカン健太郎はバナナブレッドのプティングの御茶屋峠のような人だなと
今回読み返して思いました。




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秋日子かく語りき  [大島弓子]

 

大島弓子を好きな人なら誰でも訪れるサイト「White Field」
5年も前ですが、そこにこんな文章を書きました。

作家の北村薫さんの「謎物語」という本に
大島弓子さんの名前がありました。
彼の作品「スキップ」を読んだ人から
「秋日子かく語りき」を連想したと言われて読んでみたそうです。

「読ませる。うまい。テーマを語るための仕掛けは、
大島さんの方が遙かに手が込んでいる。
そして、まったく違う話だと思う」
「あとはもう、ただ<いいなあ いいなあ>と、
つづく短編を読みすすんでいった」
と、書かれていました。
「スキップ」は好きな作品ですが、
これを読んで北村薫さん本人も好きになってしまいました。

ふたつの作品が似ているとは思わない。
大島弓子の作品を他の誰かの作品とシンクロさせるなんて、
とてもできないことであります。
もしも私が北村薫さんの立場で、「秋日子・・・」を連想させると言われたら
すごく嬉しいしものすごい讃辞として受けとめるでしょうね。

「秋日子かく語りき」はすてきな作品です。
同時に事故に巻き込まれた二人。
54歳の主婦と高校二年生の秋日子(あきひこ)
秋日子はまちがいで来たのだから今すぐ自分に戻りなさい
と神様の使いに言われます。
主婦は人生に納得してないので生き返らせて欲しいと訴えます。
それを聞いていた秋日子は
しばらくの間自分の帰り道を貸してさし上げましょう
と言い出し主婦は六日間だけ秋日子になって生活することになります。

いきなり「おばさん」になってしまった秋日子に
友達の薬子はとまどいます。
とまどいながら腹をたてながら秋日子との関係を考えていく
薬子のこころは揺れていきます。
薬子さんがとてもいいです。

秋日子に好意を寄せていた茂多くんには
入れ替わったことを伝えてありました。
六日間が終わった時、茂多が、もう入れ替わったのか、
あの人は死んでどうなったのかと聞きます。
あの人は時期王女様に生まれるんですってと秋日子は答える。
「人はね 死んだらみんな 好きなものに 生まれかわることが できるんですって」
「じゃあ ひとつのものに 大勢の希望が 集中したら どうなるのさ」

「そしたら みんなで 一人の人に なるのよ すてきでしょ」

・・・本当にすてきだと思います。

 

薬子さんのモノローグで物語は終わります
「夜空に<美しき青きドナウ>が流れていた 
秋日子の言葉は みんなの心を 一様にホッとさせ
その転生のことを それぞれが 来世(みらい)を夢みてた」

「しかし わたしは 花や蝶になりたいと いうのでなければ 我々はとってもちかい 
今生(みらい)のうちに それぞれの夢を かなえることが できるのだと 固くそう思っていた」

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秋日子かく語りき

秋日子かく語りき

  • 作者: 大島 弓子
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2003/12/25
  • メディア: コミック




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レンゲ草 四月怪談  [大島弓子]

これは19歳の誕生日に友達にプレゼントされたもの
もう25年も経ってしまったんだ・・・
今でもこのカップでコーヒーを飲んでいます。


大島弓子さんの作品が大好きで、彼女とよく話をしていました。
「四月怪談」に出てくるレンゲ草がとても印象的で
だからこのカップをプレゼントしてくれたようです。

「四月怪談」もすてきな作品です。大好き。
登校中落ちてきた鉄骨にあたって死んでしまい
初子さんは霊になって漂っています。
彼女の場合は肉体に戻ればそのまま生き返るのだと
同じ霊の岩井弦之丞から教えられますが
(彼は100年も前から川に流された自分の肉体を探しています)
なかなか戻ろうとしません。
棺のふたに釘を打っている段階なのに、こんなふうに言います。
「さようなら 16年間の わたしの とりえのなかった 生活」
弦之丞はぽろぽろと泣きます

「あなたの生き返らないこころに泣いているんです とりえってなんですか?
とりえって すなわちあなた自身ではありませんか
とべないことも 不可能なことも 冴えないことも みんなとりえなんじゃありませんか」

母親の想い、友達の想い、弦之丞の想い、それを受け止める初子の想い
初子は肉体に戻っていきます。弦之丞の手を引っ張って彼と一緒に。
レンゲ草がきっかけになります。
とても印象的で素晴らしいエピソード
レンゲ草が大好きになりました。

「なにを見ても なにをしても 奇妙に新鮮に 感じるし
見なれた 街なみを見ても うれしい」

生き返った初子さんがこう思ってくれて、
読んでいる私もとてもうれしかった。
彼女のこころも生き返ったんですね。

18歳の頃にこの作品を読むことができて本当によかった。
今でも印象は鮮やかです。



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