SSブログ

映画 『悪人』 [日本映画]

やりきれなさが残ります。
「悪人」なんていない。
「悪」という言葉で完全否定される人間なんていない。

唐突に映画は始まる。
ケータイを操る指先、爪には土が入りこんでいる。
暗い眼差しの無表情な青年・祐一

生命保険会社に勤める平凡なOL佳乃は
同僚にかっこいい彼氏を自慢したかった。
若い娘によくあるちょっとした見栄です。

かっこいい大学生はその日むしゃくしゃしていた。
そういう時に佳乃から頻繁に送られてくる
気を引こうとするメールはうざい。
夜更けに偶然佳乃に出会い。面倒だなと思いながらも
待ち合わせしていたはずの男(祐一)を目の前で袖にして
自分にアプローチしてくる女の態度に優越感をくすぐられ
その男に見せつけるようにドライブしようと誘う。
ちょっといい気になっただけ。

若い女はかっこいい男(増尾)とのドライブに有頂天。
はしゃぎながらも男の気を引こうとする。
男はどんどん嫌気がさす。

車もほとんど通らない暗い峠に置き去りにされた佳乃は
後をつけたきた祐一の救いの手を激しく拒絶する。
「どんな男の車にでも乗るんだろ。そのうち誰かが拾ってくれる」
増尾に浴びせられた言葉が耳に残っている
自分が下に見ていた男に同情されるなんて耐えられない。

悲劇に向かって歯車が動いていくのを
映画は小気味よく描いていて見事です。

芥川賞作家・吉田修一の同名長編小説を映画化。
九州北部の地方都市を舞台に、
ある殺人事件を巡る加害者と被害者、
そして残された家族たちの揺れ動く日常を背景に、
殺人を犯してしまった青年と、共に逃げる女の切ない逃避行を描く。
主演は原作を読んだ時から出演を熱望していたという妻夫木聡。
脚本は吉田修一と李相日監督が共同で担当した。

朝日新聞夕刊に連載されていたのを読んでいました。
2006年3月~07年1月という長期連載だったので
ときどき読むのを中断したという不真面目な読者です。
それでも終盤に向かう頃から続きを読まずにはいられなかった。
登場人物たちの心情が圧倒的に迫ってきて引きこまれました。

映画化されると聞いても連載から3年以上過ぎているので
内容はほとんど忘却の彼方…
シビアな話だったということだけが心に残っていた。

忘れていたはずなのに、映画の予告のワンシーンで
登場人物たちがよみがえってきました。
父が亡き娘に話しかけるシーン。
連載を読んでいるときにも、心をグッとつかまれましたが
そのとき感じたイメージがそのまま映像になって現れました。
悲しみがほとばしるようです。
語り尽くせない思いを表現する満島ひかりの表情
父を見つめる眼差し、万感の思いがこもっています。
父の言葉を聞いて目を伏せる瞬間の表情の変化、
素晴らしい。

「今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎったい。」

実は愛娘・佳乃もそういう人間だったのではないのか。
増尾と同類だったのではないの?
人の不幸をせせら嗤う大学生にも親がいて
息子を大切に思っていたはず。
立場は一瞬でひっくり返るかもしれない。

祐一が「大切な人」に出会うのは
殺人犯になった後だというやりきれなさ。
「誰かと出会いたい」「誰かと話をしたい」
切実にそう願っているときに光代と出会う。

仕事が終わりまっすぐ家に帰り
妹とその恋人が食べ残したケーキを食べる光代。
クリスマスイブなのに楽しい予定などない。
翌日、思い切った行動に出ます。
期待と不安のなか待ち合わせの場所に出かけ
祐一の車の助手席で浮き立つ表情を見せる。
しかし、その後の展開は…
ひとりになったときに泣き崩れる姿に
胸が締めつけられました。

「誰か」を強く求めるふたりは共鳴する。
それは光代の中に眠っていた激しい部分を
目覚めさせ、逃避行が始まる。

光代が灯台に戻ってきたときの祐一の気持ちを思うと
胸がいっぱいになります。
「置き去り」にされた過去が再現されるのではないかと
胸が張り裂けそうだったはず。

パトカーのサイレンが響き渡り追っ手が迫ってくる
身をなげうって光代を自分から遠ざけようとする顛末。
「大切な人」を不幸から遠ざけようとする祐一の思惑は
成功したのでしょうか。

妻夫木聡・深津絵里・樹木希林・柄本明
俳優陣の演技が見事です。
悪徳商法の松尾スズキ、バスの運転手・モロ師岡
隅々まで目の行き届いた配役であり
役者がきちんと役割をこなしているので
安心して見ていられます。

しかし祖母のパートが
バランスを崩しているように感じる。
特にラストの報道陣に囲まれるシーン。
祐一・光代の緊張感あふれる流れが遮断されて残念。
樹木希林の演技には引きこまれるけれど
制作者側までそれに流されているのでは?
と思いました。
どの作品に出演しても場をさらってしまう希林さんは
危険すぎる名バイプレーヤーです。
取り扱い注意。

この役を引き受けた岡田将生に敬意を表します。
永山絢斗(増尾の友人役)はちょっと妻夫木聡に似てますね。

T0008224q5.jpg

T0008224q2.jpg


nice!(2)  コメント(3)  トラックバック(4) 
共通テーマ:映画

BECK [日本映画]

暑い…もう9月だよね…
いいかげん暑いのには飽きた…
憂鬱な今日この頃、気分を変えるために映画館へ
音楽を浴びに、かっこいい男子にお会いするために
BECKを観にいきました。

ライブシーン、とてもよかった!

クラスでも地味に過ごし、退屈だけど
それもしかたないかと、どこかであきらめている
そんな高校生男子に出会いが訪れる。
ふとしたきっかけからギターを手にしたコユキは
どんどん音楽にのめり込んでいく。
そのプロセスを佐藤健が演じるのを見ているだけで
なんだか幸福な気持ちになる。
音楽はいいですね!
前半はとくに大好きです。
アメリカエンタメ界の大物が出てくると
ちょっとアレですが…

10201.jpg

ステキな衣装で(笑)コユキにギターを教える斎藤(カンニング竹山)
有名なフレーズを次々弾いていくシーンが好き。

イケメン五人を揃えたことで
BECKは女性に受けがいいはず。
しかし男性にはどうだろう。
だいじょうぶ、思いのほか骨太でした。

平凡な毎日を送るごく普通の高校生コユキ(佐藤健)が、
偶然天才ギタリストの南竜介(水嶋ヒロ)と出会い、
才能あふれる千葉(桐谷健太)、平(向井理)、
サク(中村蒼)らとともにバンドBECKを結成する。
コユキは天性の才能を開花させ、バンドも成功を重ねていく中
ある日、ロックフェスへの出演依頼が舞い込む。

「We Are The BECK!」
千葉を演じる桐谷健太がとてもよかった。
彼の生身のラップがBECKにリアリティを吹き込む。
佐藤健の表情は繊細で魅力的です。
主役はコユキでした。
中村蒼のサクは本当にいいヤツ。
向井理の自信にあふれたふてぶてしい表情は
ロック・ミュージシャンらしかった。
水嶋ヒロ、アメリカ育ちで異質の雰囲気を持つ竜介
メンドクサイ男を地のまま(?)演じてるように見えた。

コユキの歌声の演出、あれはあれでいいと思う。
ラスト、私にはメロディが聞こえたような気がした。
もしかしたら音響に何らかの仕掛けを施してるのかも…
(あるいは私の妄想?)

撮影は一年前の夏だったそうです。
この一年で佐藤健は「龍馬伝」の人斬り以蔵を演じ
ムカイリさんは「ゲゲゲの女房」で知名度を上げた。
この映画はツキを持ってますね。

・真帆がかわいい
・アップが多い映画だったけどみんなきれいだった
・BECKって犬の名前だったんだ
・一瞬だけうつるもたいまさこさんの強烈さ
・後ろで手を組み唄うコユキ
・佐藤健はいつまでも高校生役できそう
・木皿泉さん脚本の連ドラ出演が楽しみ
・ヨシトのキャスティングもよかった。あのビミョーさがいい。
・向井理は主役より準主役のほうが印象強いのでは
・ちょっと毒っけがあるタイプはスパイスになる
・レッチリのフリーですね
・ゲゲゲのしげーさんと半裸のベーシストが同一人物ってすごい
・かっこいい男子がそろうと壮観ですわ
・もう一回観にいくかも^^

10197.jpg


 


nice!(2)  コメント(5)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

映画 『告白』 [日本映画]

先に原作を読んでから映画を観ました。
凄い! 
中島哲也監督の手腕は信用できます。
映画は原作のエッセンスを凝縮し
より鮮やかに繰り広げてみせる。

「私の娘が死にました。
警察は事故死と判断しましたが、
娘は事故で死んだのではありません。
このクラスの生徒に殺されたのです。」
とある中学校。終業式後のホームルーム。
1年B組、37人の13歳の前に立つ担任・森口悠子の
告白で始まる衝撃の物語。
09年本屋大賞に輝いたベストセラー、湊かなえ著『告白』を、
「小説に強く惹かれ、難しいけれど映画にしてみたい」
と、中島哲也が監督・脚本を努めて挑んだ、
誰も見たことのない極限のエンターテインメント。




「告白」という本は「聖職者」という短編が
第一章になっていて(小説推理新人賞受賞作)
第二章以降を加筆して一冊にまとめられています。

セリフだけで成り立っている「聖職者」が素晴らしかった。
緊迫感あふれる完成度の高い短編。
しかし、このスリリングなテイストを持続させることは難しい。
原作は奇をてらう方向に傾いてしまったようです。
人物までステレオタイプに荒唐無稽なつくりで
正直、あれほど絶賛される作品なのかなと疑問でした。

映画は「聖職者」の密度を最後まで失わない。
一瞬たりとも目を離せなかった。

原作同様、教室での教師の告白から始まる。
松たか子が教師を演じています。
あのきれいな声で、聞き取りやすい明瞭な発音で
騒がしい中学生たちを注意するでもなく語り続けます。
無表情で淡々と語っているのに
そこからこぼれでるものが胸に迫ってくる。
「悲しみ」「後悔」「憎悪」「殺意」
演出、役者、共に見事です。

ダークな色彩の映画。
いじめられる者が瞬時にいじめる側にまわる
不安定で凶暴な中学生の教室。
犠牲者を求めて血眼になっている醜悪な子どもたち。
カリカチュアされているにしてもよく描かれている。

そんなバカなヤツらとは違うステイタスにいると
思っている少年A
彼が求めているものはただひとつ。
それを手に入れるための手段を講じただけ。
人の命なんてどうでもいい。
自分の命でさえどうでもいいと思っているのだから。
しかし直接手を下したのは少年B

「私は二人に、命の重さ、大切さを知ってほしい。
それを知った上で、自分の犯した罪の重さを知り、
それを背負って生きてほしい。」

原作での先生は暴走するのみで好きになれなかった。
教育者としての言葉は単なる絵空事としか思えません。
しかし、映画での先生はそうではない。

ファミレスを出たあとの慟哭する姿
「くだらない」
吐き捨てたのは、少年Aに?
復讐の道を突き進んでいるくせに泣いたりする自分に?

「あなたの更生はこれから始まるの」

ラスト、暗転してからのひとことは
復讐の鬼でありながら、
教育者としての魂を捨てきれない自分を
嘲るようでもありました。
人はモンスターにはなりきれない。

自分だけが特別だと思っているバカな中学生が
裁かれることに爽快感を感じてもいい。
我が子かわいさのあまり社会性を見失った親が
破滅するのをいい気味だと思ってもいい。
あんな行為はやりすぎだと嫌悪感を抱いてもいい。
「命」の代価はこれほどまでに大きいのだと
実感してほしい。

一筋縄ではいかない映画です。

以下、蛇足(笑)

続きを読む


nice!(6)  コメント(8)  トラックバック(3) 
共通テーマ:映画

映画『パーマネント野ばら』 [日本映画]

「恋愛」を全面に出している映画を観にいくのはちょっと…
と思いながらも気になってました。
監督:吉田大八
原作:西原理恵子
脚本:奥寺佐渡子
主演:菅野美穂
という強力な布陣が私を手招きする^^

【脚本:奥寺佐渡子】は細田守監督の大好きな近作二本
「時をかける少女」と「サマーウォーズ」を手がけているので
きっと私の好みだろうな、そうだといいなと思いながら
映画館へと足を運びました。

前半は猥雑さに笑ったりしながら観ていて
徐々に主人公の不安定さに不穏な空気を感じ
最後にグッと胸を衝かれました。
ある一点で映画の色が一気に変わった気がした。
それはとてもとても温かくやさしい色でした。

家に帰り、ふと気づいた。
あそこには「さえ子ちゃん」がいたんだ。
大島弓子さんの「バナナブレッドのプディング」で
幼なじみが「涯(みぎわ)におちないように」
ささえていたさえ子ちゃんが映画のなかにいました。
泣けました。

山々に囲まれた海辺の町に一軒だけある小さな美容室
「パーマネント野ばら」
離婚したなおこ(菅野美穂)は一人娘のももを連れて
故郷の街に戻り、母(夏木マリ)の営む店を手伝っている。
女たちはパーマ屋に集まりおしゃべりに花をさかせる。
下ネタ満載^^;
なおこの幼なじみ・みっちゃん(小池栄子)
ダンナの浮気に頭を悩ませていて
大ケガするほどのバトルがあっても明るくつぶやく。
「どんな恋でもしないよりましやき」
もう一人の幼なじみ・ともちゃん(池脇千鶴)
何度もダメ男にひっかかったあげく
結婚した相手はギャンブル好き。現在行方不明…

なおこも恋をしている。
高校教師・カシマとの密やかな逢瀬。
しかしそれは…

小池栄子の大きな瞳が雄弁に語っていて素晴らしい。
池脇千鶴の包容力も優しい。
夏木マリ、宇崎竜童、オバチャンたち、とてもよかったです。
惚れてしまうやろっ!って言いたいほど
江口洋介は魅力的だった。役得ですね。

菅野美穂は相変わらず素晴らしい。
恋人といるときの可愛らしさ
娘への眼差しのやさしさ
二つの世界を行き来するあやうさ
さびしさに沈んでいる表情
すごい女優さんです。

私には「大人の恋心」はあまり残らず
違った意味で心にずしんとくる映画でした。

以下、まだご覧になっていない方はご注意を

 

続きを読む


nice!(4)  コメント(5)  トラックバック(1) 
共通テーマ:映画

『のだめカンタービレ 最終楽章 後編』 [日本映画]

玉木宏演じる「千秋さま」と上野樹里の「のだめ」
これが見納めなのね。寂しいです。
いままで楽しませてくれてありがとう!

「ラヴェル ピアノ協奏曲ト長調」
のだめが心を奪われ、いつの日か
千秋の指揮で演奏したいと夢見ていた曲。
「恵ちゃんにピッタリかも かわいいというか 
ちょっとジャズ要素もあって楽しい曲だよね」by黒木くん
しかしそれは千秋とRuiが共演するコンサートの演目だった
予想をはるかに上回るRuiの演奏に
のだめはショックを受ける。

落ちこむのだめにシュトレーゼマンが
共演話を持ちかける。
客席にかけつけた千秋を前にして演奏するのは
「ショパン ピアノ協奏曲」

「出会ってからいいことづくし
あいつのおかげでオレはここまでやってこれたと
思っていたけれど…
本当はあいつをこの舞台に連れてくるために
神様がオレを日本に押し止めていたんじゃないか?」

跳んだりはねたり自由奔放で鮮やかな演奏
「最近ではあまり見られない
大胆不敵で型にはまらない個性」(原作22巻より)

世界中にお披露目されてしまったのだめは
これからどうなるのでしょう。

もちろんラストはハッピーエンド^^
二人の夢をちょっとだけ映像で見せてくれた
粋な計らいが嬉しいです。

「本当は何度も思ったことがある。
あいつは日本で好きにピアノを弾いてたときのほうが
幸せだったんじゃないかって…
いつまでもムリしてつらい道をいかせなくても
あいつが本当に好きな道を選んで
オレはそれを受け入れて
普通の恋人どうしのように」

「それでもオレはやっぱり何度でも
あいつをあの舞台に連れて行きたいと思うんだ」

のだめは「好きな道」をちゃんと選びましたよ^^

 

続きを読む


タグ:のだめ
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画