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『半身』 サラ・ウォーターズ [読書・海外]

*第1位「週刊文春」2003年傑作ミステリーベスト10/海外部門
*第1位「このミステリーがすごい! 2004年版」海外編ベスト10

1874年の秋、マーガレット・プライアは
テムズ湖畔にそびえるミルバンク監獄を
慰問のために訪れる。そこで不思議な女囚に出会う。
天使のような顔の19歳のシライナは霊媒だった。

発売当時、絶賛の声があちこちから上がっていました。
読み終えると確かに納得できる。
この物語の世界に入り込み
ゆったりと味わうように読む人には
とてもおもしろく、価値がある本だと思う。
しかしミステリーとして読むと中盤のゆっくりした展開に
ちょっとイライラする。

1874年のロンドンの貴婦人の生活に興味津々で
おもしろく読んでいたのですが、途中で
「またミルバンクに行くのね、もういいよ」
と、着地点が全く見えない運びにうんざりでした。

終盤は怒濤の展開で圧倒的です。
ラスト一行まで読み終えると
ほう~っと感嘆のため息がもれる。
なんて丁寧に作り上げられているんだろう。
…後味はよくないけれど。
ピーター・クイックはまさに「支配霊」でしたね。

ミルバンク監獄でシライナに出会う場面の
なんて美しいこと。
マーガレットが心を奪われるのも当然です。

「よく似た姿をわたしはたしかに見たことがある。
聖女か天使を描いた、クリベェッリの絵の中に。」
「組んでいた両手を開き、頬にあてると、
荒れたてのひらに、ちらりと鮮やかな色が見えた。
指の間には一輪の花――うなだれた菫の花がある。
わたしが見守る中、彼女は花をくちびるにあて、
息を吹きかけた。紫色の花びらが震え、輝いて見える…」

こんなことをやってのける美しい女。
世間知らずのお嬢さまはあっという間に陥落です。

以下、未読の方はご注意を
 

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『スリーピング・ドール』 ジェフリー・ディーヴァー [読書・海外]

おもしろかった!


リンカーン・ライムシリーズ「ウォッチメーカー」に登場した
尋問のエキスパート、キャサリン・ダンスが主人公です。
本作でもその手腕はいかんなく発揮されています。


他人をコントロールする天才ダニエル・ペル。
カルトを率い、8年前に一家を惨殺したその男が、
大胆かつ緻密な計画で脱走した。
美貌の「人間噓嘘発見器」キャサリン・ダンスは
言葉と頭脳を武器に、怜悧な脱獄犯を追う−。

キャサリン・ダンスがダニエル・ペルを尋問する取調室
そこから物語は始まる。青い瞳のペルvs緑の瞳のダンス。
冒頭から直接対決が描かれそこから物語に引きこまれる。

言葉や表情の変化、仕草を観察し
相手の心の底に隠されたものをあぶり出す
ダンスは真実に近づくため
ペルは相手をコントロールし支配するため

尋問直後に脱獄したペルの捜索チームの指揮を
ダンスが執ることになる。
月曜日から土曜日までの追跡劇とエピローグが
スリリングに展開されていきます。

魔法にかかったように一気に読まずにはいられない。
二転三転するストーリーには
手のひらの上で自在に転がされているような快感があります。

でも少し冷静になって考えるとペルのやっていることは
あまりに考えなしであきれてしまう。
自分の聖地(山の頂)を守るためには
「脅威を排除しなければならない」
その考えは妄執に近い。
「自分には他人をコントロールする力がある」
支配(コントロール)の王を自認するペルは
絶対に捕まるはずがないと考えていたのか。
先に逃げればいいのに…
おっと、水を差すようなことを書いてしまったけど
この本は本当におもしろいです!

ライムとアメリアもゲスト出演しています。
「ああ、きみがこっちに来られたらいいのに。」
な~んてライムに言わせるとは。信頼が厚いですね^^

ペルが率いていた熱狂的信奉者の集団[ファミリー]にいた
三人の女性が重要な意味を持って登場します。
「スリーピング・ドール」と呼ばれた
一家殺害事件のただ一人の生き残りテレサ。
ペルの脱獄逃亡を手助けするジェニー。
彼女たちが全面に出て物語を動かしていく後半は
ペルの存在感が希薄になった感さえありました。

以下、未読の方はご注意を



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『消せない炎』 ヒギンズ [読書・海外]

『消せない炎』
ジャック・ヒギンズ、ジャスティン・リチャーズ共著
おもしろかった!
父ちゃんがかっこいいです^^

イギリスのベストセラー作家発のYA向け小説
とつぜんあらわれた「父」、
接近するスパイや謎の女、石油をめぐる陰謀……。
15歳の双子が、勇気と知恵で事件を追う!

双子のリッチとジェイドは母を交通事故で失ってしまう。
N.Yからイギリスに戻ってきたばかりだったのに。
葬儀に父親と名乗る男が現れる。
「ジョン・チャンス。きみたちの父親だ」
シングルマザーだった母から父のことは聞かされていなかった。
しかし身よりのない二人はこの男を頼るしかない。

男の住んでいるアパートメントは生活感がなく
仕事についても口を濁すばかり。
得体のしれない男をリッチとジェイドはいぶかしむ。

「父親ぶらないで」
とジェイド(娘)がチャンス(父親)に
反抗的な態度をとり続けているのを読んでいて
いいかげんうんざりした頃に事態は急転します。
このあたりから俄然おもしろくなる。

読者にとってもチャンスは謎めいた存在です。
本当に双子の父なのか味方なのか判断がつかない。
チャンスが行方不明になったと同時に
手助けを申し出る人物が何人か現れる。
これがまた素性の知れないあやしげな人たちなわけです。
双子も読者も誰を信じていいのかわからない。

それがはっきりするのは109ページ
危機に瀕したチャンスのモノローグ

「どんな運命が待ち受けていようと、
子どもたちだけはなんとしても守る。
彼はみずからに誓った…。」

ここで読者はチャンスの立場を理解し
子どもたちへの愛情を確信する。
双子がそれを知るのはもう少し先になります。

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『ぼくを探しに/The Missing Piece』 [読書・海外]

イマドキノワカモノ真っ最中の次男の部屋をのぞいたら
なつかしい本が目に飛び込んできた。
「ぼくを探しに」
「ビッグ・オーとの出会い―続ぼくを探しに」

0714.jpg

かなり前に自分で買ったらしい。
「いい本だよ。深いよね」
なんて言っている。
原書はないのと聞くと
買おうと思ったけれど売ってなかったとのこと。
それだったらプレゼントするよということになって
ネットできれいめの古本を探して手に入れました。

息子が気に入って自分のお小遣いで手に入れた本が
昔々まだ高校生だった私が手にした本と同じだなんて
なんだかうれしいではありませんか。

「ビッグ・オーとの出会い―続ぼくを探しに」
(The Missing Piece Meets the Big O)
実はこちらの本は読んでいなかった。
「かけら」が主人公になっています。

「かけらはひとりで座っていた」
「誰かがやってきて
どこかへ連れていってくれないか
と待ちながら」

かけらは自分がぴったりおさまるスペースがあいていて
転がっていける形のものが現れるのを待っている
さてお望みのものは現れるのでしょうか?
そしてかけらを見つけてくれるのでしょうか?

「かけらはひとりじゃころがれないんだ」
「やってみたことはあるの?」
とビッグ・オーは言う。

続編の「ビッグ・オーとの出会い」のほうが
共感できます。
十代の頃にこれを読んだらきっとドキッとしたと思う。

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『ウォッチメイカー』 ジェフリー・ディーヴァー [読書・海外]

リンカーン・ライム・シリーズ最新作
現場に時計を残してゆく殺人鬼ウォッチメイカー。
目撃証言から犯人が購入した時計は10個と判明。
全部で10人の人間が殺害されるのだ。
次は誰が、いつ?
鑑識の天才ライムの頭脳が殺人鬼を追うが――。
               文藝春秋HPより転載


楽しみにしているリンカーン・ライムシリーズ
絶対にどんでん返しがあるとわかっているので
注意深く読み進めていく。
それなのにいつも「そうきたか」と思ってしまうのでした。
今回も堪能させていただきました。
でも…結末にちょっとだけ不完全燃焼気味かな。

ハンサムで冷笑的で短気な犯罪学者、四肢麻痺のライム
背が高く一途な目をしたニューヨーク市警刑事、アメリア・サックス
皺だらけのスーツを着た太鼓腹の刑事、ロン・セリットー
前作「12番目のカード」で瀕死の重傷を負ったロナルド・プラスキーが
元気な姿を見せてくれるのが嬉しい。
そして初登場のキャサリン・ダンス
キネシクスの専門家、尋問のエキスパート。
キネシクスとは相手の体に表れる動き(ボディランゲージ)を
観察して、心理状態や嘘をついているかどうかを判断するもの。
身ぶりや姿勢、言葉の選択、返事の要旨を観察して結果を導き出す。

物的証拠を分析する天才ライムと
人間観察のエキスパートが揃ったら無敵です。
ライムのチームはまたバージョンアップしてしまいました^^;


酷い手口の猟奇殺人事件が一晩で二件発生する。
両方の現場に同じ時計と犯人の書いた詩が残されていたことから
同一犯の仕業だと認定される。
わずかに残された手がかりからライムは犯人を追いつめようとする。
ライムとそのパートナー、アメリア・サックス
無敵のコンビネーションを誇るふたりだったが
この事件では不協和音が発生している。
アメリアは別の事件を担当していて、ライムの事件とかけ持ちしている。
そこでプラスキーくんがグリッド捜査デビューとなりました。
ライムとの会話にハラハラでした。
「捜索は抜かりなく、背後の用心も抜かりなく」

以下、未読の方はご注意下さい…


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