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『死者の名を読み上げよ』 イアン・ランキン [読書・海外]

G8会議が間近に迫り、騒然となるエジンバラ市街。
宿敵カファティの部下が殺された事件を追っているリーバスは、
上層部からの執拗な圧力にも屈せず、捜査に邁進するが…。
英国を震撼させた1週間を背景に描く、警察小説。

図書館の新刊コーナーを見ていたら
「ランキン」という著者名が目に留まった。
聞いたことある名前だけれど読んだことはない。
ということで久しぶりにポケミスを読み始める。

おもしろかった。
主人公は定年間近のリーバス警部。
部下のシボーンはリーバスをこう評する。

仕事にとりつかれ、キャリアからはずされる。
意固地で、信頼されない。
リーバスは二十年近くも、警部の地位に据え置かれたままだ。

リーバスは家族や友人を脇へ押しやり、
死体やペテン師、殺人犯やこそ泥、
強姦犯や用心棒、恐喝犯や人種差別者を優先した結果、
大切な人たちを失ったのだ。

そして死者の名を読み上げつづける。

54歳の若さで急死した弟の葬儀に参列するリーバス
物語はそこから始まる。
葬儀の終わり、賛美歌のかわりに流れた曲は
The Whoザ・フー「愛の支配(Love Reign O'er Me )」

作中にロックミュージシャンの名前が頻繁に登場します。
作者のイアン・ランキンは私と同い年。
ということはU2のボノとも同い年。
リーバスと弟が聴いていたThe Whoはもう少し上の世代
そういう人たちが定年を迎える年代になってるのですね。

・2005年7月6日より英スコットランドのグレンイーグルズで
主要国首脳会議(G8サミット)が開催された。
・この日は2012年のロンドンオリンピックが決定した日でもある。
・7月2日にはボブ・ゲルドフが提唱したコンサート「Live 8」が
【Make Poverty History(貧困を過去のものに)】
をスローガンにハイドパークで開かれる。
「G8サミットに先駆け、先進国の首脳に
アフリカの債務帳消しや援助増額を訴えるために」
・サミット開催中の7月7日、ロンドン同時爆破テロが発生。
(地下鉄3ヶ所がほぼ同時に、その一時間後にバスが爆破され
56人が死亡した)

7月1日から9日までの激動の日々が舞台。
サミット開催地の近郊で、抗議集会やデモ行進が
行われていたという当時のイギリス国内の状況は、
新聞やニュースで報道されていたのかもしれないけれど
私の記憶にはまったく残ってないです。
ただロック・スターの集まる「「Live 8」を
楽しんでいただけ。
これほどまでに混沌とした激動の一週間だったとは。

エジンバラ警察のリーバス警部の長年に渡る宿敵カファティ
その部下が殺された事件は連続殺人の様相を見せ始める。
証拠が発見された場所がG8の会議の庭先だったため
捜査を中断するようにと上層部は圧力をかけてくる。
そんなときエジンバラ城から労働党議員が転落死した。
国際開発担当の政務秘書官、ベン・ウエブスター
事故か自殺かそれとも殺人事件か。
一方リーバスの部下、シボーン部長刑事の母親が
デモ行進の巻き添えで暴行を受ける。
犯人を捜し出そうと必死になるシボーン。
この3つのラインの捜査が錯綜しながら展開する。

最後に見事に縒り合わさっていきました。

悪いヤツ、ギャングのラファティ
シボーンそいつに近づいてはダメでしょう
と思いながら読んでました。案の定最悪の事態が発生。
親に対する長年にわたる根深い問題にとらわれると
理性なんか吹っ飛ぶのね。
認められたいというシボーンの切なる願いは痛々しかった。

リーバス、最後に仕返しできてよかったね。

それにしても、遺留品をまとめて
クルーティ・ウエルに置いておく意味あったのかな。
捜査を攪乱するためだったのでしょうけれど
結果的に手がかりを残して
真相にたどりつくように導いただけだったような気が…

 

死者の名を読み上げよ〔ハヤカワ・ミステリ1834〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

死者の名を読み上げよ〔ハヤカワ・ミステリ1834〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

  • 作者: イアン・ランキン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/03/05
  • メディア: 新書


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『ソウル・コレクター』 ジェフリー・ディーヴァー [読書・海外]

そいつは電子データを操り、証拠を捏造し、殺人を繰り返す
──どの証拠が犯人につながるのか? 
新たな強敵にライムとアメリアが挑む
リンカーン・ライム・シリーズ最新作

前作『ウォッチメーカー』のようにひねりにひねった展開を
期待していると肩すかしをくらったように感じる。
(あれ以上を望むのはハードル高すぎだけど)
今回の犯人はライムの相手には役不足ではないかな。
それでもおもしろかった。
いつものように読み始めたらとまらない!


 

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『ジーヴズの事件簿』 P・G・ウッドハウス [読書・海外]

楽しいっ!
主人思い…とは言い切れないジーヴズが最高^^

バーティ・ウースターが揉め事に巻き込まれるたびに
従僕のジーヴズが見事に解決するというお話。

ジーヴズを雇い始めた当初、バーティは
従僕の奴隷になんかならないぞと頑張っていた。
しかしそんな考えはあっという間に吹っ飛んでしまう。
ジーブズの頭脳に完敗したわけです。
「ジーブズが来て一週間もたたないうちに、
僕は自分のことを自分で処理するのをやめてしまった。」

ジーブズのことを「バーティの飼い主」とまでいう
アガサ叔母の言葉もあながち外れてるとは言い難い(笑)

ジーブズの態度が頑なになるのは
バーティの前衛的な服装の趣味が気に入らないとき。
最初の衝突は「派手なチェックのスーツ」
「突飛すぎる」とジーブズは判断している。
結果は…もちろんバーティの敗北。
明るい緋色のカマーバンド、藤色の靴下と
勝負は続くが、結果はいつも同じ。
でも、バーティはまだまだがんばるつもりだと思う。
そういうヤツだもの。

「ミスター・ウースターはとても明るく優しい方だが、
知性はゼロ。頭脳皆無。精神的には取るに足らない
― 全く取るに足らん」
ジーブズは自分が休暇を取る前に代わりの男に
こんな風に引き継ぎをしている。
それを立ち聞きしながら反論できないバーティ
彼が胸を張って自分の魂は自分のものだと主張するのは
ちょっと無理そうです。

トラブルの合間を縫って賭けで儲けたり
楽しみにしていたモンテ・カルロ行きが
バーティの都合で変更になり落胆するも
結局は予定通りに行くことになるという結末に
持っていく手腕といい、ジーブズはしたたかな男で
そこがすごく好きです。
おもしろかった!

トラブルはアガサ叔母(ミセス・グレグソン)と
惚れっぽいビンゴ・リトルの二方向からやってくることが多い。
「ロンドンの社交界では容赦ない辛辣さで
名前をとどろかせた叔母」
「反社会的なのらくら人間」のバーティを
矯正しようとアガサ叔母は様々なプランを仕掛けてくる。
結婚相手を見つけてきたり
大臣の個人秘書にさせようとしたり。
そのたびにジーブズの機転に救われる。
たとえそれが「元々あたまの弱い若さま」だからカンベンしてね
という解決方法でも…
これを許すバーティもなかなかの人物だと思う^^

学校からの15年来の友人、ビンゴ・リトル。
女の子に惚れるとバーティに力を貸せと言ってくる。
しかしたいていの場合、うまくいかない。
女を見る目がないしあんなにケーハクなら
いまくいくはずないと思っていたら、
しっかりした女性と結婚できたのでびっくり。
結婚しても相変わらずトラブルは持ち込んでくるけどね。

従兄弟のクロードとユースタスの破壊力も
忘れられません^^;

ジーヴス&ウースターは漫画化されてるようですね。
「プリーズ、ジーヴス」
読んでみたいです^^

 


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『朗読者』 ベルンハルト・シュリンク [読書・海外]

ケイト・ウィンスレットがアカデミー主演女優賞を受賞しました。
作品は「愛を読むひと(THE READER)」
「朗読者」というタイトルの原作が
出版当時話題になっていたことを思い出し
遅ればせながら読んでみました。

年上の女性との情事が主題となる作品は苦手です。
残酷な結末が必ず用意されていて
センチメンタルなものが多いような気がする。
しかしこの本については勘違いしてました。
それはプロローグにすぎない。
その後の出来事がさまざまな事を問いかけてくる。
読み終わったあとに胸がざわつきました。

学校の帰りに気分が悪くなった15歳のミヒャエルは、
21歳年上の女性ハンナに介抱してもらい、
それがきっかけで恋に落ちる。
そして彼女の求めに応じて本を朗読して聞かせるようになる。
ところがある日、彼女は突然、失踪してしまう。
数年後、法学を専攻する学生として傍聴した裁判で
被告席のハンナと再会する。
それはナチス時代の戦争犯罪を裁く法廷だった。

一読した直後、私はミヒャエルに腹を立てていた。
「気楽でエゴイスティックな関係」
それだけで終わらせようとした中途半端な善意。

しかし彼が関わったことで
ハンナは読み書きできるようになった。
書物を読むことで自分がどのような罪で裁かれたのか
あの時代に何が起きていたのか
はっきりと理解できたのでしょう。
遺書に書かれたミヒャエルへの伝言で
それがわかります。

子どもが書いたような文字のハンナから手紙
ミヒャエル同様、私も歓喜に満たされました。
ハンナも嬉しかったでしょうね。

ミヒャエルを責めるばかりではいけない。
目を背けて若き日の甘美な思い出に閉じこめることも
できたのだから。
しかし彼がハンナに関わるのは贖罪のためでもある。
彼女が隠し通していたことを明らかにすれば
量刑を軽くできたかもしれないとわかっていながら
ミヒャエルは行動に移さなかった。

この時、彼は自分の父に助言を求めた。
父は哲学者として息子の問いに答える。
この言葉は深く私の胸に刻まれました。

…感想が長文になるような気がする…
以下、つらつらとまとまりなく書いてます。

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『ナイン・テイラーズ』 ドロシー・L.セイヤーズ [読書・海外]

おもしろかった!
「転座鳴鐘術」という鐘の打ち方についてのあれこれが
語られると、どうにも取っつきにくく挫折しそうになりましたが
それを乗り越えると村人たちとのやりとりが楽しくなる。

「お目にかかれて光栄でのす、御前さま。
へえ、わしゃテイラーポールをごっそり引いてきたで。
あの娘(こ)とわしとは長いつきあいじゃで、
これからもずんと引いちゃる気でのすよ。」

というような田舎ことばが頻繁に出てきます。
なんだか懐かしい^^
中高生のときに集中的に読んでいた翻訳ミステリーに
こういう言葉遣いがよく出てきたような気がする。

犯罪捜査を趣味とする貴族のピーター・ウィムジー卿
アクが強いわけではなく気さくで飄々としています。
坂田靖子さんの「バジル氏」をイメージして読んでしまいました。
側に仕えるのは従僕のバンター。
バンターのキャラがいいんですよ^^
「まあ、バンターについて僕の知らないことといったら、
本一冊ぶんくらいありますからね」
とピーター卿が言うくらい底知れぬ(?)人物ですわ。

「交代で綱を握ってもらえないのが残念だ」
「誓って申し上げますが、鳴鐘術の実技を学ばずに
きましたことを生まれて初めて後悔致しております」
「おまえにもできないことがあると知るたびに嬉しくなる。」

「かしこまりました、御前」
といつもは堅苦しい姿しか見せないのに
台所では寄席の物真似がずば抜けて上手。
トーキーの倍は面白いと料理番が言っているらしい。
なんて素敵なんでしょう^^

「THE NINE TAILORS」 弔いの鐘― 九告鐘

吹雪の大晦日、午後四時過ぎ
ピーター・ウィムジー卿の運転する車は
溝にはまってしまった。
フェンチャーチ・セント・ポール村の教会に
従僕のバンターと泊まることになる。
教区長は新年を鐘で迎えるにあたり
9時間にわたり鐘を鳴らす転座鳴鐘を計画していたが
蔓延する流感のため、鐘方が足りなくなる。
そこでピーター卿は久々に鐘綱を握ることに。

無事に役割を果たした後に村をあとにするが
後日届いた教区長の手紙により再び教会を訪れる。
墓地に見知らぬ死骸が埋葬されていたのだ。

顔を潰され両手を手首のところで切断された死体。
死因は不明。
この死体は何者なのか?
誰がいつここに埋葬したのか?

過去の事件が解決の糸口になり
徐々に謎が解けていく過程がおもしろかったです。
暗号解読もあり、フランスまで舞台が移動したり
長編を飽きずに読むことができました。
転座鳴鐘術が暗号解読で意味を持つんですね。
死因は意外でした。
そしてあまりの酷さにゾッとします。

捜査のために自費でフランスに行き
(戦場跡を個人的に旅して回っているという名目で)
完璧なフランス語を駆使して捜査する。
ピーター卿の道楽は大がかりですね^^

ナイン・テイラーズ (創元推理文庫)

ナイン・テイラーズ (創元推理文庫)

  • 作者: ドロシー・L. セイヤーズ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1998/02
  • メディア: 文庫

次は「学寮祭の夜」を読みましょう!


タグ:ピーター卿
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